源泉徴収票の電子交付とみなし承諾

令和5年度税制改正により、「給与所得の源泉徴収票」と「給与等の支払明細書」について、電子交付する際に必要な承諾手続が簡略化されました。
改正前は、源泉徴収票等を電子交付するには、受給者である従業員等にあらかじめ電子交付方法の種類と内容を示し、電磁的方法又は書面による承諾を得ることが必要でした。
改正後は、「給与支払者が定める期限までに承諾に係る回答がない時は承諾があったものとみなす」という通知を、あらかじめ受給者に行い、上記期限までに受給者から回答がなかった場合には、承諾を得たものとみなされます。(みなし承諾)

 


受給者への通知の具体的な方法

通知方法は、法令上特に規定はないものの、電子メールの送信、書面の交付などの手段で、受給者へ「確実な通知」を行う必要がありあす。
「確実な通知」を行う注意点として、給与支払者が社内情報共有ツール等を利用して、対象の全従業員向けに発信した際に、一部の従業員等が閲覧できないことが起こらないように、あらかじめ閲覧権限の設定等の確認が必要です。


また、通知に対する承諾の回答期限についても特に定めはないので、受給者の勤務状況等を考慮し、回答に必要な期間を十分に見積もって設定しましょう。

 


従来通り、電子交付に承諾を得る必要がある事項

みなし承諾の対象となるのは「給与所得の源泉徴収票」と「給与等の支払明細書」のみとなり、それ以外の下記の事項については、従来通り従業員等から電磁的方法又は書面で承諾を得ることが必要です。
 

・退職所得の源泉徴収票、退職手当等の支払明細書
・公的年金等の源泉徴収票、公的年金等の支払明細書
・オープン型証券投資信託収益の分配の支払調書
・配当等とみなす金額に関する支払調書
・上場株式配当等の支払通知書
・特定口座年間取引報告書
・特定割引債の償還金の支払通知書
・未成年者口座年間取引報告書

 


電子交付の方法と要件

電子交付には、次の方法があります。


①電子メールで直接送付する
②源泉徴収票等のデータをネット上にアップロードし、社内ネットワークやインターネットにより受給者がアクセスして閲覧する
③CD等の媒体に記録して交付する


なお、電子交付の際には、下記の要件を満たす必要があります。
・受給者等ごとに作成されたファイルに記録されている記載事項について、パソコン等で表示や書面への出力ができること
・①および②の場合、電子交付したことを通知すること


源泉徴収票等を電子交付する場合、データを改変できないような措置は求められてはいませんが、真実性等を担保するためには、電子署名を付し電子証明書を添付するのが望ましいです。


■給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/denshikofu-qa/question.htm

インボイス登録申請の延長

インボイス制度が始まる令和5年10月1日から登録を受けるには、原則として同年3月31日までの申請が必要でした。
しかし令和5年度改正により、令和5年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出すれば登録を受けることが可能です。
これまでは、4月以降に申請する場合、インボイス制度が開始する令和5年 10 月1日に登録を受けたものとみなす宥恕規定の適用を受けるためには、申請書に「期限までの申請が困難な事情」の記載が必要でしたが、この「困難な事情」の記載は不要となりました。

 


インボイス制度が開始する10月1日までに登録の通知が来なかったら?


制度開始日である令和5年10月1日までに登録通知が届かなかった場合であっても、同日から登録を受けたものとみなされます。


通知を受けるまでは以下のような対応が考えられます。
・暫定的な請求書を交付し、通知後にインボイスとしての不足事項を書面で交付し補完する
・事前にインボイスの交付が遅れる旨を取引先に伝え、通知後にインボイスを交付する
・取引先に対して通知を受けるまでは暫定的な請求書を交付し、通知後に改めてインボイスを交付しなおす


登録申請書の処理期間は、e-Tax提出なら約3週間、書面提出なら約2か月かかるため(4月10日現在)、登録を決めた場合は早めに申請するのがおすすめです。


■適格請求書発行事業者の登録件数及び登録申請書の処理期間について
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/kensu_kikan.pdf

 


期限の特例

ちなみに、最終日となる令和5年9月30日は土曜日です。
申告書等の提出等に係る期限が土日等に当たるときは、その翌日を期限とみなす「期限の特例」が設けられています。
しかし、インボイス登録に係る経過措置に関しては上記の「期限の特例」の対象にはなりません。
「期限の特例」の対象となるには、条文上に期限の定めがあることが前提です。
インボイスの登録申請に関する条文には「(制度開始日にインボイス発行事業者の)登録を受けようとする事業者は、5年施行日の 6月前の日=3月31日まで に、登録申請書を 提出しなければならない 」とありますので、3月31日が土日であれば「期限の特例」の対象でしたが、経過措置にはこのような期限の定めがないため、最終日は翌月曜日にならないので注意が必要です。

 


インボイス制度開始後の10月以降に登録はできるのか?

免税事業者が令和5年10月1日後から令和11年9月30日までの間に登録を受ける場合には、適格請求書発行事業者の登録申請書に、提出日から 15 日以後の日を「登録希望日」として記載すれば、その登録希望日から登録を受けることができます。

インボイス登録番号の収集と管理

2023年10月1日からスタートするインボイス制度に向け、取引先の登録番号の収集や管理等を進めている企業もあるのではないでしょうか。
登録番号を収集するには、
・取引先のホームページに登録番号が掲載されているか確認する
・取引先に直接確認する
・取引先の法人番号から確認する
・業界団体が作成したデータを活用する

等の方法があります。

 


法人番号と公表サイトを活用して確認

法人の場合、インボイス登録番号は「T+法人番号」で構成されているので、法人番号公表サイトで取引先の法人番号を確認できれば、登録番号を確認することは可能です。
適格請求書発行事業者公表サイトで、取引先が実際にインボイス登録されているか確認してみると良いでしょう。

 

■国税庁法人番号公表サイト
https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/

 

■国税庁適格請求書発行事業者公表サイト
https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/

※適格請求書発行事業者公表サイトは、手元にある登録番号が有効かどうかを確認することが目的なので、当該サイトを利用して番号を収集するのは難しいです。

 


業界団体が提供しているデータを活用

加工食品卸売業が加盟する業界団体である一般社団法人日本加工食品卸協会では、インボイス制度開始に向け、「適格請求書発行事業者登録番号台帳」を作成し公表しています。
会員以外でもデータをダウンロードすることができますので、これを参考にするのも良いでしょう。

 

■一般社団法人日本加工食品卸協会
http://nsk.c.ooco.jp/

配偶者居住権の賃料収入と経費算入

令和2年4月1日に始まった配偶者住居権に基づき、自宅の所有者の許可を得れば、配偶者は使用収益が可能となり、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。
その場合の賃料は、配偶者の不動産所得と考えられ、配偶者が負担すべき自宅に係る固定資産税等は必要経費に算入できます。

 


配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった際に、残された配偶者が亡くなった人が所有していた建物に、賃料の負担がなく、引き続き住み続けることができる権利です。
残された配偶者の居住権を保護するため、令和2年4月1日以降に亡くなられた方の相続から新たに認められました。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても、一定の要件の下、居住権を取得することで、亡くなった人が所有していた建物に引き続き住めるようにするものです。

 

残された配偶者は、亡くなった人の遺言や、相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって、配偶者居住権を取得することができます。
配偶者居住権を設定することで、自宅の所有権を子に相続させても、配偶者は自宅に居住し続けることが権利上可能なうえ、自宅の所有権を取得しない代わりに、配偶者は自宅以外の、預貯金等の財産をより多く相続できることになり、今後の生活費を確保しやすくなる等のメリットがあります。
また、所有権を持つ子の許可を得れば、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。

 

 


固定資産税と減価償却費

配偶者はその建物の通常の必要費を負担するものとされており、固定資産税は配偶者が負担すべき費用に当たるようです。
そのため、配偶者居住権に基づき、配偶者が自宅を賃貸する場合、配偶者が負担すべき固定資産税は自宅の賃貸に係る必要経費として、配偶者の賃料収入から差し引くことができます。
一方で、不動産所得計算上、減価償却費は必要経費に算入できません。
減価償却費は建物の所有者である子の必要経費に算入されます。

 

しかし、建物の所有者である子が、同居し、日常の生活の資を共にしている生計一の場合、本来は子の必要経費に算入されるべき自宅の減価償却費を配偶者の必要経費に算入できます。

圧縮記帳の適用と償却資産税

国や地方公共団体から交付された補助金を使って固定資産を取得した場合、圧縮記帳の制度が使えます。
さらに、固定資産の圧縮記帳後の金額が30万円未満であれば、全額損金算入することも可能です。

 


圧縮記帳とは

圧縮記帳は、補助金を受取った事業年度の大幅な課税を避けるための方法です。

 

例:国からの補助金を使って機械を購入した場合

補助金収入には税金がかかるため、せっかく補助金を受給しても、初年度の税金が大きくなり、補助金の効果が薄れてしまいます。
そこで、補助金と同額の損金(固定資産圧縮損)を計上することで、結果として相殺が可能となります。
これにより、補助金を受給した事業年度に、補助金の効果を十分に受けられることになります。

 

ただし、圧縮記帳を適用すると、固定資産の取得価額も減額されるため、2年目以降は減価償却費が少ない分、計上できる減価償却費も小さくなり、課税所得は大きくなりますので、トータルで考えると、税負担を軽減しているわけではなく税を繰り延べていることになります。

 


償却資産税の申告は圧縮記帳前の金額で行う

地方税法上、償却資産は、土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産等とされ、少額の償却資産は除かれています。
少額の償却資産の範囲に、圧縮記帳制度を適用した資産は含まれないため、償却資産税では、圧縮記帳前の金額、つまり、取得価額をベースに申告する必要があります。

 

例:50万円の機械を購入し、圧縮記帳後の金額が20万円となった場合
中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例を適用して全額損金算入することができます。
一方、償却資産税は、圧縮記帳は認められませんので、圧縮記帳前の50万円をベースに申告します。

 

なお、地方税法における少額の償却資産は、「少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度」と「一括償却資産の損金算入制度」の適用がある資産等に限られます。
そのため、圧縮記帳を行わず「中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例」のみで全額損金算入した固定資産についても、少額の償却資産には該当しません。