インボイス発行事業者の相続

インボイス発行事業者の方が亡くなり、インボイス登録を受けていない相続人が事業を承継した場合、インボイス発行事業者としての地位や登録番号は自動的に引き継がれるのでしょうか。
答えはNOです。
しかし、一定の期間を「みなし登録期間」とし、相続人をインボイス発行事業者とみなす措置が設けられており、この間、一時的に相続人は被相続人の登録番号でインボイスを発行することが可能となります。

 


インボイス発行事業者として事業を継続するために必要な手続き

相続人は、「登録申請書」および「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を税務署に提出する必要があります。

 

■消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A
問 15
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

 


インボイスみなし登録期間

相続人が一時的に、被相続人の登録番号でインボイスを発行することが可能となる、みなし登録期間が終了するのは、
・被相続人が亡くなった日の翌日から4ヶ月を経過した日
・相続人が登録申請をした日の翌日

のいずれか早い日となります。


つまり、この「みなし登録期間中」に、遅くとも相続開始から4か月以内に登録申請が必要となります。
みなし登録期間を経過すると、登録申請を行わない限りインボイスの発行が出来なくなるため、インボイス発行事業者として事業を継続する場合には、忘れないように注意が必要です。


なお、日本税理士会連合会は、令和7年度税制改正に関する建議書で、相続から4か月以内に承継人が決定することは少なく相続税の申告期限(10 カ月以内)を迎える頃に決定することが一般的であることを理由に、「被相続人のインボイスみなし登録期間を、相続税の法定申告期限までとすること」としています。


■令和7年度税制改正に関する建議書
24.被相続人のインボイスみなし登録期間を、相続税の法定申告期限までとすること。
https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/whatsnew/doc/kengisyo-R7.pdf

出張旅費等特例

インボイス制度では、帳簿とインボイスの保存が仕入税額控除の要件ですが、会社が従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当などの経費において、通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となる「出張旅費等特例」があります。
出張時の公共交通機関の利用など、インボイスの交付が難しい場面もあるかと思いますが、この特例によって、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

 


出張旅費等特例とは

従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等(以下「出張旅費等」という。)のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存による仕入税額控除が可能となります。
また、出張費に関する社内規程や基準の有無、概算払いによるものか実費精算によるものかにかかわらず、通常必要と認められる部分であれば、出張旅費特例の対象となります。


■インボイス制度における特例②(出張旅費等特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-138.pdf

 


特例を受けるための帳簿記載要件

出張旅費等特例の対象となる取引は、インボイスの保存は不要ですが、以下の事項を帳簿に記載する必要があります。

 

・相手方の氏名または名称
・取引年月日
・取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
・税率の異なるごとに区分した支払対価の額
・摘要欄に特例の適用がある旨の記載


摘要欄への記載以外は、通常通りの帳簿記載です。
特例の適用について、忘れないように摘要欄へ追記しましょう。

 


出張旅費等にかかる適用税率


社内規程に基づいて日当(標準税率10%)を支給した際に、その日当を飲食店等での食事(標準税率10%)ではなく、例えばコンビニで飲食料品を購入(軽減税率8%)した場合、適用税率の調整はどのように行えば良いでしょうか。

会社が支給した日当は、企業は飲食料品の譲渡の対象として支出するものではないため、軽減税率の適用対象となりません。
しかし、従業員が支払った実費については、受領した領収書に基づいて適用税率を判定することになり、軽減税率の対象となります。


■消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)
(日当等の取扱い)問37
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/03-01.pdf

 


出張旅費以外に、帳簿保存のみで仕入税額控除が認められる取引の例

出張旅費以外にも、次のような取引については一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなっています。
 

・適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

・適格請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(上記の公共交通機関取引を除く)

・古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得

・宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

・適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

食事の現物支給と課税

最近の食料品や光熱費などの急激な物価上昇に対して、従業員の生活を支援するために、ランチ代を補助する企業が増加しているようです。
福利厚生として支給する昼食が、一定の要件を満たす「食事の現物支給」であれば、非課税となります。

 


現物支給とは

従業員への給与は金銭支給が原則ですが、他にも住居や食事など、次に掲げるような物または権利、その他の経済的利益として支給されることがあります。
 

①物品その他の資産を無償又は低い価額により譲渡したことによる経済的利益

②土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により貸し付けたことによる経済的利益

③福利厚生施設の利用など②以外の用役を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益

④個人的債務を免除又は負担したことによる経済的利益


【代表的な現物支給の例】

・通勤定期券
・記念品
・食事、食事代の補助
・家賃補助や社宅
・ユニフォーム
・商品券・カタログギフト
・人間ドックの会社負担
・社員旅行費用
・会社の商品・製品・値引き販売
・慶弔費用(見舞金や香典、ご祝儀)

など、様々なものが対象として考えられます。


現物支給には、
①業務遂行のため必要で支給されるもの
②換金性に欠けるもの
③その評価が困難なもの
④受給者側に物品などの選択肢が無いもの など
金銭による給与とは異なる性質があり、また、政策上特別の配慮を要するものなどもあるため、特定の現物給与は、課税上、金銭の給与とは異なった特別の取り扱いがあります。


■No.2508 給与所得となるもの
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm

 


現物支給の昼食が非課税になる要件

従業員に対して食事を支給する際に、以下の2点を満たした場合、非課税となります。


・従業員が食事代の半分以上を負担している
・会社の補助額が1か月あたり税抜3,500円以下である


気を付ける点として、この非課税が適用されるのは、弁当等を現物支給する場合に限られています。
従業員が飲食店で食事をし、実費精算した場合には金銭支給となるため、現物支給とはならず、課税対象となります。
※ただし、会社が特定の店と契約しており、従業員の食事代を店に支払う場合には、現物支給として認められ、非課税として良いとされています。


■使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/44.htm

 

 


その他の非課税になる現物支給の例

食事以外にも、非課税となる現物支給は下記のような例があります。


・1カ月150,000円までの通勤用定期乗車券(合理的な経路及び方法で住居と就業場所を往復するために使用する場合に限る)
・処分見込価額による評価額が10,000円以下の創業記念品や永年勤続表彰記念品
・会社の業務を行うために直接必要な研修旅行
・旅行期間が4泊5日(海外旅行の場合は現地滞在日数)以内で、かつ、社員の50%以上が参加している社員旅 など


なお、残業または宿日直を行う際に支給する食事は、無料(従業員の負担がゼロ)で支給しても、課税しなくても良いことになっています。

中小法人等と中小企業者の違い

令和6年度改正では、いくつかの中小企業向けの改正が行われていますが、法人税法上の「中小法人等」と租税特別措置法上の「中小企業者」の範囲はそれぞれ異なります。
国内の企業の殆どが中小企業で、その割合は99.7%です。(2021年 6月1日時点)
 

中小法人かつ中小企業者となるには、資本金の額等が1億円以下であることが最低条件ですが、発行済株式が大規模法人にどのくらい保有されているかで、中小企業者等になれないケースもあります。

 


中小法人等とは

法人税法において、「中小法人等」とするには以下の要件を満たす必要があります。

・資本金の額等が1億円以下の普通法人
・資本金が5億円以上の法人(大法人)による完全支配関係がない

 

■中小法人に適用される主な特例等

・法人税率の軽減
・交際費等の損金不算入制度の特例
・貸倒引当金を一定の限度額の範囲内で損金算入可
・特定同族会社に対して課される留保金課税の適用除外
など

 


中小企業者とは

租税特別措置法において、「中小企業者等」とするには以下の要件を満たす必要があります。

・資本金の額等が1億円以下
・発行済株式の2分の1以上を資本金が1億円超の大規模法人に保有されていない
・発行済株式の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されていない


■中小企業者に適用される主な特例等
・少額減価償却資産に係る損金算入の特例
・中小企業者等の試験研究費に係る法人税額の特別控除
・中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除
・給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除
など

 


「資本金等の額」と「資本金の額等」

それぞれの判定は、「資本金等の額」ではなく「資本金の額等」が1億円以下かどうかで決まります。
少々ややこしいですが、下記のようにご理解ください。


■「資本金の額等」とは、資本金の額又は出資金の額のことです。


■「資本金等の額」とは、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額のことで、先の「資本金の額等」に一定の項目を加減算した金額を指します。

電子取引の取引情報の保存について 電子データと書面の関係

令和6年1月1日より、メールやクラウド上で受け渡しが行われた請求書等の電子取引のデータは、電子保存が義務化されましたが、同じ内容の書類を書面(紙)でも受け取った場合、それぞれの保存はどうするのが正解なのでしょうか。
電子データと書面、どちらを正本として取り扱うかにより、その保存範囲が変わってきます。

 


電子取引とは

電子取引とは、電子メールやホームページ、クラウドサービス、EDIシステム等を利用し、取引情報をやりとりした取引のことです。


■具体的な電子取引

・電子メールによる請求書や領収書などのデータの受領(PDFなど)
・ホームページからのデータのダウンロード、もしくは表示されているデータのスクリーンショットの利用
・クラウドサービスを利用した電子請求書、電子領収書などの授受
・クレジットカード・ICカードなどの利用明細や支払いデータを使ったクラウドサービスの利用
・EDIシステムの利用
・ペーパーレス化に対応したFAX機能を有する複合機の利用
・DVDやUSBなどの記録媒体を介して行う請求書や領収書などのデータの受領

 


書面のみの保存で足りるケース

上記のような、書面ではなく電子データでやりとりした情報が電子保存の対象となりますが、取引先によっては、電子データと同じ内容のものを書面で送付してくる場合もあるのではないしょうか。
電子データと書面が同一の場合、取引先との間で書面を正本として取り扱うことを取り決めている場合、書面のみの保存で構いません。

 


書面と電子データの両方を保存するケース

 

書面と電子データを授受し、書面を正本とする取り決めがあった場合でも、電子データの保存が必要なケースがあります。
例えば、メールと書面で受け取った見積書について、見積もり内容の補足をメールのみでやり取りした場合、電子メールの保存も必要となります。
書面(=正本)で受け取った取引情報を補完するような内容が電子データに含まれているとき、書面と電子データの両方を保存しなければなりません。


■国税庁 お問合せの多いご質問
紙と電子データの重複
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021010-200.pdf