インボイスの保存とクレジットカードの利用明細

インボイス制度が始まって1年が経過しました。
インボイス制度とは、税率が複数あっても、事業者の方が消費税を正確に計算できるように、消費税の金額等が記載された請求書等(インボイス)を基に計算する仕組みです。請求書・領収書・納品書など書類の名称を問わず、必要な項目が記載されていればインボイスとなり、仕入税額控除が可能となります。
一般的に、クレジットカードの利用明細はインボイス記載事項を満たす書類には該当しないため、仕入税額控除はできません。

 


クレジットカードの利用明細書は請求書には該当しない

クレジットカードの利用明細は、クレジットカードの利用履歴や支払い金額、登録口座から引落しになる金額、引落し日などが記載されているもので、クレジットカード会社がカード利用者に発行するものにすぎず、事業者(カード加盟店)が、カード利用者に対して発行する消費税法上の請求書等には該当しません。
そのため、クレジットカードの利用明細を保存しても、カード利用代金について仕入税額控除の適用を受けることはできません。
事業者=カード加盟店から発行された、領収書等のインボイスを保存することで、仕入税額控除が適用されます。

なお、クレジットカード会社とカード利用者間の取引となる、カードの年会費・再発行手数料等については、クレジットカード会社がインボイスを発行しています。

 


インボイスが不要でも仕入税額控除可能な特例の対象取引

一方で、少額特例や、公共交通機関特例、出張旅費等特例など、インボイスの保存が不要で仕入税額控除が可能となる取引については、クレジットカード利用明細書に基づき、仕入税額控除の処理を行っても問題ありません。

 


【少額特例】
少額特例とは、一定規模以下の事業者であれば、税込1万円未満の課税仕入れについて、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの6年間、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。

 

 

 


【公共交通機関特例】
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送に対する支払いの仕入税額控除について、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。


【出張旅費等特例】
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)について、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。


上記以外にも、自動販売機による3万円未満の取引や、郵便切手の購入など、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるケースがいくつかあります。


■国税庁
インボイス制度開始後において特にご留意いただきたい事項
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0023011-111.pdf

複数の代表取締役がいる場合の事業承継税制

事業承継税制は、事業承継の際に発生する多額の贈与税・相続税の納税猶予や納付免除により、後継者の負担を軽減することで、円滑な事業承継に繋がることを目的として創設されました。

 


事業承継税制とは

事業承継税制は、後継者が事業を続けることを条件に、贈与税・相続税の納税猶予や納付免除を受けることができる制度です。
例えば、1代目経営者が、2代目に事業承継を行い、更に3代目も事業承継した場合、2代目が払うべき税金が最終的には免除されます。
多額の税金を支払わなくて良いため、納税資金の調達が不要になりますが、長期間の納税猶予期間中は報告・届出が必要となり、取消事由が発生した際は猶予されていた税額+利息を支払わなければならない等、メリットとデメリットがあります。


【メリット】

・事業を継続している限り、多額の贈与税・相続税を負担しなくてよい
・特例措置の場合、相続税も贈与税も納税猶予割合が100%になる


【デメリット】

・免除されるまでの猶予期間が長い
・猶予期間中は、定期的に報告・届出をしなければならない
・取消事由(後継者の退任、報告・届出を怠った、廃業、株式の贈与や譲渡した等)により猶予されていた税額+利息が発生
・実質的にM&Aが出来なくなる


■法人版事業承継税制
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm

 

■非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0024006-044_01.pdf

 


複数の代表取締役が存在するケースも

この制度を適用するには、先代経営者は、贈与前に会社の代表者であり、贈与時には退任し、代表権を失っている必要があり、後継者は、贈与時に代表権を保有していなければなりません。

会社法上、株式会社には取締役を1名以上置かなければなりません。
そこから代表取締役が選定されますが、
・非取締役会設置会社では、原則、各取締役がそれぞれ代表取締役となる
・取締役会設置会社では、取締役会の決議により取締役の中から代表取締役が選定され、人数の制限はない
とされています。
そのため、会社によっては代表取締役が複数いる場合もあります。

 


複数の代表取締役のうち、後継者になれるのは誰か

代表取締役が複数いる場合の事業承継税制はどうなるのでしょうか。


会社の代表権は、定款に記載されている法律上の名称である代表取締役かどうかで判断されるので、社長や専務などの役職や肩書にかかわらず、代表取締役のうち1名が後継者になることがきます。


例として、先代の経営者が、子供に株式を贈与して事業承継する際に、まだ経験不足の子供は代表取締役専務に、キャリアの長い役員を代表取締役社長にした場合、定款等に代表取締役との登記があれば、子供への事業承継税制は適用されます。

インボイス発行事業者の相続

インボイス発行事業者の方が亡くなり、インボイス登録を受けていない相続人が事業を承継した場合、インボイス発行事業者としての地位や登録番号は自動的に引き継がれるのでしょうか。
答えはNOです。
しかし、一定の期間を「みなし登録期間」とし、相続人をインボイス発行事業者とみなす措置が設けられており、この間、一時的に相続人は被相続人の登録番号でインボイスを発行することが可能となります。

 


インボイス発行事業者として事業を継続するために必要な手続き

相続人は、「登録申請書」および「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を税務署に提出する必要があります。

 

■消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A
問 15
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

 


インボイスみなし登録期間

相続人が一時的に、被相続人の登録番号でインボイスを発行することが可能となる、みなし登録期間が終了するのは、
・被相続人が亡くなった日の翌日から4ヶ月を経過した日
・相続人が登録申請をした日の翌日

のいずれか早い日となります。


つまり、この「みなし登録期間中」に、遅くとも相続開始から4か月以内に登録申請が必要となります。
みなし登録期間を経過すると、登録申請を行わない限りインボイスの発行が出来なくなるため、インボイス発行事業者として事業を継続する場合には、忘れないように注意が必要です。


なお、日本税理士会連合会は、令和7年度税制改正に関する建議書で、相続から4か月以内に承継人が決定することは少なく相続税の申告期限(10 カ月以内)を迎える頃に決定することが一般的であることを理由に、「被相続人のインボイスみなし登録期間を、相続税の法定申告期限までとすること」としています。


■令和7年度税制改正に関する建議書
24.被相続人のインボイスみなし登録期間を、相続税の法定申告期限までとすること。
https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/whatsnew/doc/kengisyo-R7.pdf

出張旅費等特例

インボイス制度では、帳簿とインボイスの保存が仕入税額控除の要件ですが、会社が従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当などの経費において、通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となる「出張旅費等特例」があります。
出張時の公共交通機関の利用など、インボイスの交付が難しい場面もあるかと思いますが、この特例によって、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

 


出張旅費等特例とは

従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等(以下「出張旅費等」という。)のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存による仕入税額控除が可能となります。
また、出張費に関する社内規程や基準の有無、概算払いによるものか実費精算によるものかにかかわらず、通常必要と認められる部分であれば、出張旅費特例の対象となります。


■インボイス制度における特例②(出張旅費等特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-138.pdf

 


特例を受けるための帳簿記載要件

出張旅費等特例の対象となる取引は、インボイスの保存は不要ですが、以下の事項を帳簿に記載する必要があります。

 

・相手方の氏名または名称
・取引年月日
・取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
・税率の異なるごとに区分した支払対価の額
・摘要欄に特例の適用がある旨の記載


摘要欄への記載以外は、通常通りの帳簿記載です。
特例の適用について、忘れないように摘要欄へ追記しましょう。

 


出張旅費等にかかる適用税率


社内規程に基づいて日当(標準税率10%)を支給した際に、その日当を飲食店等での食事(標準税率10%)ではなく、例えばコンビニで飲食料品を購入(軽減税率8%)した場合、適用税率の調整はどのように行えば良いでしょうか。

会社が支給した日当は、企業は飲食料品の譲渡の対象として支出するものではないため、軽減税率の適用対象となりません。
しかし、従業員が支払った実費については、受領した領収書に基づいて適用税率を判定することになり、軽減税率の対象となります。


■消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)
(日当等の取扱い)問37
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/03-01.pdf

 


出張旅費以外に、帳簿保存のみで仕入税額控除が認められる取引の例

出張旅費以外にも、次のような取引については一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなっています。
 

・適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

・適格請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(上記の公共交通機関取引を除く)

・古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得

・宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

・適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

食事の現物支給と課税

最近の食料品や光熱費などの急激な物価上昇に対して、従業員の生活を支援するために、ランチ代を補助する企業が増加しているようです。
福利厚生として支給する昼食が、一定の要件を満たす「食事の現物支給」であれば、非課税となります。

 


現物支給とは

従業員への給与は金銭支給が原則ですが、他にも住居や食事など、次に掲げるような物または権利、その他の経済的利益として支給されることがあります。
 

①物品その他の資産を無償又は低い価額により譲渡したことによる経済的利益

②土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により貸し付けたことによる経済的利益

③福利厚生施設の利用など②以外の用役を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益

④個人的債務を免除又は負担したことによる経済的利益


【代表的な現物支給の例】

・通勤定期券
・記念品
・食事、食事代の補助
・家賃補助や社宅
・ユニフォーム
・商品券・カタログギフト
・人間ドックの会社負担
・社員旅行費用
・会社の商品・製品・値引き販売
・慶弔費用(見舞金や香典、ご祝儀)

など、様々なものが対象として考えられます。


現物支給には、
①業務遂行のため必要で支給されるもの
②換金性に欠けるもの
③その評価が困難なもの
④受給者側に物品などの選択肢が無いもの など
金銭による給与とは異なる性質があり、また、政策上特別の配慮を要するものなどもあるため、特定の現物給与は、課税上、金銭の給与とは異なった特別の取り扱いがあります。


■No.2508 給与所得となるもの
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm

 


現物支給の昼食が非課税になる要件

従業員に対して食事を支給する際に、以下の2点を満たした場合、非課税となります。


・従業員が食事代の半分以上を負担している
・会社の補助額が1か月あたり税抜3,500円以下である


気を付ける点として、この非課税が適用されるのは、弁当等を現物支給する場合に限られています。
従業員が飲食店で食事をし、実費精算した場合には金銭支給となるため、現物支給とはならず、課税対象となります。
※ただし、会社が特定の店と契約しており、従業員の食事代を店に支払う場合には、現物支給として認められ、非課税として良いとされています。


■使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/44.htm

 

 


その他の非課税になる現物支給の例

食事以外にも、非課税となる現物支給は下記のような例があります。


・1カ月150,000円までの通勤用定期乗車券(合理的な経路及び方法で住居と就業場所を往復するために使用する場合に限る)
・処分見込価額による評価額が10,000円以下の創業記念品や永年勤続表彰記念品
・会社の業務を行うために直接必要な研修旅行
・旅行期間が4泊5日(海外旅行の場合は現地滞在日数)以内で、かつ、社員の50%以上が参加している社員旅 など


なお、残業または宿日直を行う際に支給する食事は、無料(従業員の負担がゼロ)で支給しても、課税しなくても良いことになっています。