会社が従業員のために負担するボランティア保険

外国に比べ、自然災害の多い日本では、地震や水害などが発生した際に、自分でも何かできることはないかと考えることが多いと思います。
昨今では、社会貢献や成長などの目的を持って、従業員が積極的にボランティア活動を行うことを後押し、その活動をサポートするための休暇制度の導入や各種費用を負担する企業も増えているのではないでしょうか。
活動に関わる費用の中には、旅費交通費や宿泊費などのほか、ボランティア保険の保険料も該当します。

 


ボランティア保険とは

ボランティア保険は、災害の起きた地域でのボランティア活動中の病気やケガ、事故により他人にケガを負わせた、他人の物を壊したといった対人・対物賠償の備えを目的に任意で加入するのもです。
個人又は会社が取扱代理店と契約を結び、補償対象に当たる場合に保険金が支払われます。
ボランティア活動の様々なリスクに備えると共に、従業員本人の安心感にも繋がるのではないでしょうか。
 

ボランティア保険に関連して、会社が契約した損害保険も同様に、会社が保険料を支払ったことで従業員(特定の者に対するものを除きます)が受ける経済的利益についても、課税しなくても良いとされています。

 


ボランティア活動に業務関連性があれば非課税となることも

所得税法上、従業員が業務遂行のために勤務地を離れて旅行した場合、発生した交通費や宿泊代や日当などは必要な支出として支給され、給与課税の対象外となります。
 

ボランティア活動に関する費用を会社が負担する場合はどうでしょうか。
被災地でのボランティア活動の目的が、社員研修を兼ねている、自社商品の配布など、私的なものではなく、あくまでも業務に関連したものであり、社内の規程等に基づいた常識的な範囲で適切に支払われたものであれば、課税されない余地があります。
 

また、たとえ社内規程に定められていても
・業務関連性がない
・社内で募集したボランティア活動の参加資格が、役職や性別が限定された一部の従業員が対象となっており、適正なバランスが保たれていない
・休日を利用してプライベートで参加した(業務時間外に行われた)
などの場合、課税対象となる可能性もあります。

インボイスの保存とクレジットカードの利用明細

インボイス制度が始まって1年が経過しました。
インボイス制度とは、税率が複数あっても、事業者の方が消費税を正確に計算できるように、消費税の金額等が記載された請求書等(インボイス)を基に計算する仕組みです。請求書・領収書・納品書など書類の名称を問わず、必要な項目が記載されていればインボイスとなり、仕入税額控除が可能となります。
一般的に、クレジットカードの利用明細はインボイス記載事項を満たす書類には該当しないため、仕入税額控除はできません。

 


クレジットカードの利用明細書は請求書には該当しない

クレジットカードの利用明細は、クレジットカードの利用履歴や支払い金額、登録口座から引落しになる金額、引落し日などが記載されているもので、クレジットカード会社がカード利用者に発行するものにすぎず、事業者(カード加盟店)が、カード利用者に対して発行する消費税法上の請求書等には該当しません。
そのため、クレジットカードの利用明細を保存しても、カード利用代金について仕入税額控除の適用を受けることはできません。
事業者=カード加盟店から発行された、領収書等のインボイスを保存することで、仕入税額控除が適用されます。

なお、クレジットカード会社とカード利用者間の取引となる、カードの年会費・再発行手数料等については、クレジットカード会社がインボイスを発行しています。

 


インボイスが不要でも仕入税額控除可能な特例の対象取引

一方で、少額特例や、公共交通機関特例、出張旅費等特例など、インボイスの保存が不要で仕入税額控除が可能となる取引については、クレジットカード利用明細書に基づき、仕入税額控除の処理を行っても問題ありません。

 


【少額特例】
少額特例とは、一定規模以下の事業者であれば、税込1万円未満の課税仕入れについて、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの6年間、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。


【公共交通機関特例】
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送に対する支払いの仕入税額控除について、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。


【出張旅費等特例】
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)について、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。


上記以外にも、自動販売機による3万円未満の取引や、郵便切手の購入など、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるケースがいくつかあります。


■国税庁
インボイス制度開始後において特にご留意いただきたい事項
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0023011-111.pdf

複数の代表取締役がいる場合の事業承継税制

事業承継税制は、事業承継の際に発生する多額の贈与税・相続税の納税猶予や納付免除により、後継者の負担を軽減することで、円滑な事業承継に繋がることを目的として創設されました。

 


事業承継税制とは

事業承継税制は、後継者が事業を続けることを条件に、贈与税・相続税の納税猶予や納付免除を受けることができる制度です。
例えば、1代目経営者が、2代目に事業承継を行い、更に3代目も事業承継した場合、2代目が払うべき税金が最終的には免除されます。
多額の税金を支払わなくて良いため、納税資金の調達が不要になりますが、長期間の納税猶予期間中は報告・届出が必要となり、取消事由が発生した際は猶予されていた税額+利息を支払わなければならない等、メリットとデメリットがあります。


【メリット】

・事業を継続している限り、多額の贈与税・相続税を負担しなくてよい
・特例措置の場合、相続税も贈与税も納税猶予割合が100%になる


【デメリット】

・免除されるまでの猶予期間が長い
・猶予期間中は、定期的に報告・届出をしなければならない
・取消事由(後継者の退任、報告・届出を怠った、廃業、株式の贈与や譲渡した等)により猶予されていた税額+利息が発生
・実質的にM&Aが出来なくなる


■法人版事業承継税制
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm

 

■非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0024006-044_01.pdf

 


複数の代表取締役が存在するケースも

この制度を適用するには、先代経営者は、贈与前に会社の代表者であり、贈与時には退任し、代表権を失っている必要があり、後継者は、贈与時に代表権を保有していなければなりません。

会社法上、株式会社には取締役を1名以上置かなければなりません。
そこから代表取締役が選定されますが、
・非取締役会設置会社では、原則、各取締役がそれぞれ代表取締役となる
・取締役会設置会社では、取締役会の決議により取締役の中から代表取締役が選定され、人数の制限はない
とされています。
そのため、会社によっては代表取締役が複数いる場合もあります。

 


複数の代表取締役のうち、後継者になれるのは誰か

代表取締役が複数いる場合の事業承継税制はどうなるのでしょうか。


会社の代表権は、定款に記載されている法律上の名称である代表取締役かどうかで判断されるので、社長や専務などの役職や肩書にかかわらず、代表取締役のうち1名が後継者になることがきます。


例として、先代の経営者が、子供に株式を贈与して事業承継する際に、まだ経験不足の子供は代表取締役専務に、キャリアの長い役員を代表取締役社長にした場合、定款等に代表取締役との登記があれば、子供への事業承継税制は適用されます。

インボイス 少額特例について

インボイス制度が始まると、2023年10月1日以後に行った課税仕入れは、原則として、インボイスの保存等がなければ仕入れや経費の取引について仕入税額控除が適用できません。
しかし、事務負担の軽減のため、一定規模以下の事業者については少額特例が認められます。

 


少額特例とは

少額特例とは、以下のいずれかの要件を満たしている事業者であれば、税込1万円未満の課税仕入れについて、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの6年間、インボイスがなくても、帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。
 

【少額特例の対象事業者となる要件】

基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者
 ※基準期間:前々事業年度

特定期間における課税売上高が5千万以下の事業者
 ※特定期間:前事業年度開始日から6か月間


なお、新設法人における基準期間のない課税期間については、売上高にかかわらず1万円未満の課税仕入れについて少額特例を適用できます。


■少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/02.htm

 

 


税込1万円未満の判定単位

少額特例の判定単位は、一取引ごとの金額での判定となるため、一商品ごとや月まとめの複数取引をまとめた請求書等の単位では判定されません。


【例】
・10月9日に5000円の商品を購入、10月20日に7000円の商品を購入した場合
それぞれ10000円未満の取引となるため少額特例の対象


・5000円の商品と7000円の商品を、合計12000円同時に購入した場合
1度の取引が10000円以上となるため少額特例の対象外


・月額10万円の清掃業務(稼働日数:12日)
→稼働日で按分すると10000円未満となるが、月まとめの取引が10000円以上となるため少額特例の対象外


判定単位の詳細については下記URLでご確認ください。
■インボイスQ&A
問109 一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置における1万円未満の判定単位
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf#page=158

 


仕入れ先がインボイス発行事業者でなくても少額特例の対象となります

少額特例の適用について、課税仕入れ先がインボイス発行事業者ではなく、免税事業者や個人の場合でも、少額特例の対象となります。
1万円未満の課税仕入れであれば、相手方がインボイス発行事業者かどうかの確認や、受領した領収書等がインボイスかどうかの仕分け作業は不要となります。


しかし、少額特例は、あくまでも仕入れを行う買い手側のインボイス保存要件についての特例となりますので、売り手側のインボイス交付義務に変わりはなく、買い手側から求められた場合、金額にかかわらずインボイスを交付しなければなりません。

社内副業の源泉徴収について

働き方改革の一環で副業解禁が進む中、正式な所属先に籍を置いた状態で、所属部署以外の業務に携わる「社内副業」を導入している企業もあるのではないでしょうか。
社内副業を行った従業員に対して報酬を支払う場合、それが「事業所得」となるか、源泉徴収の必要がある「給与所得」となるかは、実態に基づいた判断が必要となってきます。

 


給与所得か事業所得なのか、判断基準となる判例

社内副業を導入する際に、本業(雇用契約)の所定労働時間とは別に、所属部署以外で業務を行えるよう、従業員と企業側で、社内副業についての業務委託契約を締結することがあります。
しかし、業務委託というその契約の名称から、社内副業は源泉徴収の必要のない「事業所得」であると即座に決定することはできません。
判断によく使われる判例は、昭和56年4月24日の最高裁での判決です。

 

 

事業所得とは「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」であるのに対し、給与所得は「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」とされる。

 

 


給与所得か事業所得なのか、判断基準となる判例

上記の判決内容をわかり易くするために、営業部で働く従業員Aが業務委託契約を締結し、設計部で社内副業を行うケースで考えてみます。

 

■給与所得となる場合
副業先である設計部での業務について、企業側から従業員Aに対し、指揮命令や用具供与があるなど、設計部の他従業員と同じ状態で業務を行っている場合は給与所得となり、源泉徴収が必要です。

 

■事業所得となる場合
企業側からは、従業員Aに対しての指揮命令や用具供与などは行われず、従業員Aが成果物を納品した場合等は事業所得となります。
なお、従業員Aが、給与等を営業部のみから受給しており、設計部での社内副業の事業所得が20万円を超える場合、確定申告が必要となります。

 


社内副業のメリット・デメリット

通常は自身の所属する部署での業務が基本ですが、社内副業では他の部署での仕事に携わることができるので、経験の蓄積、スキルや知識の幅を広げることが可能となります。
企業側にとっても、人手不足や離職率低下の解消に役立つ面もあるでしょう。

 

一方、社内副業の課題として、従業員は本来の業務に加えて別の業務に取り組むため、スケジュール調整やマネジメントの複雑化などの負担増加が考えられます。

 

一部の大手企業で広がりつつある社内副業制度ですが、制度設計を工夫すれば企業規模を問わずに効果的に行える場合もあります。
その際は、源泉徴収の有無、業務量の調整、指揮命令系統の明確化などが留意点として挙げられます。