複数の代表取締役がいる場合の事業承継税制

事業承継税制は、事業承継の際に発生する多額の贈与税・相続税の納税猶予や納付免除により、後継者の負担を軽減することで、円滑な事業承継に繋がることを目的として創設されました。

 


事業承継税制とは

事業承継税制は、後継者が事業を続けることを条件に、贈与税・相続税の納税猶予や納付免除を受けることができる制度です。
例えば、1代目経営者が、2代目に事業承継を行い、更に3代目も事業承継した場合、2代目が払うべき税金が最終的には免除されます。
多額の税金を支払わなくて良いため、納税資金の調達が不要になりますが、長期間の納税猶予期間中は報告・届出が必要となり、取消事由が発生した際は猶予されていた税額+利息を支払わなければならない等、メリットとデメリットがあります。


【メリット】

・事業を継続している限り、多額の贈与税・相続税を負担しなくてよい
・特例措置の場合、相続税も贈与税も納税猶予割合が100%になる


【デメリット】

・免除されるまでの猶予期間が長い
・猶予期間中は、定期的に報告・届出をしなければならない
・取消事由(後継者の退任、報告・届出を怠った、廃業、株式の贈与や譲渡した等)により猶予されていた税額+利息が発生
・実質的にM&Aが出来なくなる


■法人版事業承継税制
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm

 

■非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0024006-044_01.pdf

 


複数の代表取締役が存在するケースも

この制度を適用するには、先代経営者は、贈与前に会社の代表者であり、贈与時には退任し、代表権を失っている必要があり、後継者は、贈与時に代表権を保有していなければなりません。

会社法上、株式会社には取締役を1名以上置かなければなりません。
そこから代表取締役が選定されますが、
・非取締役会設置会社では、原則、各取締役がそれぞれ代表取締役となる
・取締役会設置会社では、取締役会の決議により取締役の中から代表取締役が選定され、人数の制限はない
とされています。
そのため、会社によっては代表取締役が複数いる場合もあります。

 


複数の代表取締役のうち、後継者になれるのは誰か

代表取締役が複数いる場合の事業承継税制はどうなるのでしょうか。


会社の代表権は、定款に記載されている法律上の名称である代表取締役かどうかで判断されるので、社長や専務などの役職や肩書にかかわらず、代表取締役のうち1名が後継者になることがきます。


例として、先代の経営者が、子供に株式を贈与して事業承継する際に、まだ経験不足の子供は代表取締役専務に、キャリアの長い役員を代表取締役社長にした場合、定款等に代表取締役との登記があれば、子供への事業承継税制は適用されます。

老人ホーム入居でも対象 空き家譲渡特例

ニュースでも取り上げられている、全国に増加する空き家問題。
老朽化した空き家の増加により、倒壊の危険や治安の悪化など、周辺地域に悪影響を及ぼすとして、社会問題となっています。
この問題を解決するために、空き家譲渡特例があります。

 


空き家譲渡特例とは

いわゆる空き家譲渡特例とは、被相続人が一人暮らしをしていた不動産(空き家や敷地)を譲渡価額1億円以下で売却した際の譲渡所得の金額から、最大3,000万円を控除できる特例です。
対象となるには、空き家を譲渡する際に、一定の耐震基準を満たす必要がある等、いくつかの要件があります。

 


空き家譲渡特例の対象となる譲渡資産の要件

①昭和56年5月31日以前に建築された建物である

倒壊の危険を解決するために、建物の耐震基準を満たすリフォームを行った後に譲渡するか、建物を壊して土地のみを譲渡しなければなりません。
 

②相続開始直前まで、被相続人が一人暮らしをしていた
被相続人に同居人がいなかった場合に限り対象となります。
 

③相続から譲渡までの間、ずっと空き家のままである
相続した後に、事業用に使用、または賃貸等の貸し付けに利用せず、譲渡するまでずっと空き家である必要があります。


その他の要件・詳細については下記URLでご確認ください。
■国税庁
No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

 

 


老人ホーム入居等の特定事由について

被相続人が相続開始直前に家屋に住んでいなくても特例の対象となる場合があります。

・要介護認定等を受けて老人ホームや介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅等に入所した場合
・障害者支援区分の認定を受けて障害者支援施設等に入所した場合

なお、老人ホームなどの施設への入所ではなく、介護のために親族の家に住んでいた場合は、対象とはなりません。

 

また、被相続人が老人ホームなどの施設に入居している間の空き家については以下のような要件を満たす必要があります。
・相続開始直前まで被相続人の家財の保管等に使用されていた
・事業・貸付に使用されていない
・被相続人以外の者の居住の用に供されていない

 

申請時には、被相続人が要介護認定等を受けていたことを証明する書類や、老人ホーム等入所時の契約書、空き家の電気・水道・ガスの契約名義(支払人)及び使用中止日が確認できる書類等が必要となります。

配偶者居住権の賃料収入と経費算入

令和2年4月1日に始まった配偶者住居権に基づき、自宅の所有者の許可を得れば、配偶者は使用収益が可能となり、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。
その場合の賃料は、配偶者の不動産所得と考えられ、配偶者が負担すべき自宅に係る固定資産税等は必要経費に算入できます。

 


配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった際に、残された配偶者が亡くなった人が所有していた建物に、賃料の負担がなく、引き続き住み続けることができる権利です。
残された配偶者の居住権を保護するため、令和2年4月1日以降に亡くなられた方の相続から新たに認められました。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても、一定の要件の下、居住権を取得することで、亡くなった人が所有していた建物に引き続き住めるようにするものです。

 

残された配偶者は、亡くなった人の遺言や、相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって、配偶者居住権を取得することができます。
配偶者居住権を設定することで、自宅の所有権を子に相続させても、配偶者は自宅に居住し続けることが権利上可能なうえ、自宅の所有権を取得しない代わりに、配偶者は自宅以外の、預貯金等の財産をより多く相続できることになり、今後の生活費を確保しやすくなる等のメリットがあります。
また、所有権を持つ子の許可を得れば、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。

 

 


固定資産税と減価償却費

配偶者はその建物の通常の必要費を負担するものとされており、固定資産税は配偶者が負担すべき費用に当たるようです。
そのため、配偶者居住権に基づき、配偶者が自宅を賃貸する場合、配偶者が負担すべき固定資産税は自宅の賃貸に係る必要経費として、配偶者の賃料収入から差し引くことができます。
一方で、不動産所得計算上、減価償却費は必要経費に算入できません。
減価償却費は建物の所有者である子の必要経費に算入されます。

 

しかし、建物の所有者である子が、同居し、日常の生活の資を共にしている生計一の場合、本来は子の必要経費に算入されるべき自宅の減価償却費を配偶者の必要経費に算入できます。

相続税の障がい者控除について

 

 


近年、相続税の申告において、小規模宅地等の特例の細かい税制改正が毎年のように行われており、特例、控除等の適用要件が年々複雑化しているように思われます。今回は基本的な内容ですが、意外と注意が必要な項目を紹介させていただきます。

(1)相続税の障がい者控除

   今回の内容は相続税の障がい者控除です。相続税の障がい者控除は、被相続人(亡くなられた人)が障がい者に該当するかどうかで適用するのではなく、相続人(相続等により財産を取得した人)が障がい者に該当するかどうかで適用します。この控除は税額の軽減になりますので算出税額から税額控除を行うため、場合によっては大きな税額の減額になることがあります。

(2)内容

相続人が85歳未満で障がい者に該当するときは、相続税の額から一定の金額(  詳細(4))を差し引きます。

(3)障がい者控除が受けられる人

次のすべてに該当する人です。

①相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ被相続人が一時居住者被相続人又は非居住者相続人である場合を除きます。)

②相続や遺贈で財産を取得した時に障がい者である人

③相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人であること

※ここで注意すべき点は

1.障がい者控除を受ける人が相続や遺贈により財産を取得していることです。財産を全く取得していなければ、障がい者控除を受けることができません。1円でも取得している場合は控除限度額に満たなくても、要件を満たす他の相続人から控除できます。

2.障がい者控除を受ける人が法定相続人であることです。法定相続人でない人が遺贈で財産を取得した場合や生命保険の受取人に指定されていて死亡保険金を受け取った場合等は適用できません。

(3)障がい者控除の額

控除額の計算方法は、下記の通りとなります。

(85歳-相続開始時の年齢)✕10万円(特別障がい者の場合は20万円)

仮に、相続開始時の年齢が40歳であれば、

(85歳-40歳)✕10万円(特別障がい者の場合は20万円)= 450万円の税額が相続税額から控除されます。

障がい者、特別障がい者どちらに該当するかについては、細かい内容なので、国税庁のホームペ-ジ等を参照してください。

また、障がい者控除額が、その障がい者本人の相続税額より大きいため控除額が引ききれないことがあります。この場合は、その引ききれない部分をその障がい者の扶養義務者の相続税額から控除します。扶養義務者とは、配偶者、直系血族(親、子等)及び兄弟姉妹の他、3親等内の親族のうち一定のもの(条件あり)となっています。 「相続税法基本通達1の2-1」より

(4)相続税申告においては、相続人が障がい者に該当すれば、障がい者控除の適用が あることを覚えていると、遺産分割を協議するときにも役立つと思われます。

また、障がい者控除については法定相続人すべての状況を確認する必要がありますので、相続人代表がまとめて申告する場合等は各相続人の状況を把握し該当する人がいないか注意する必要があります。

詳しい内容につきましては、税理士法人 村上事務所までご相談ください。

中森 徹

 

平成30年分路線価発表により検討すべきこと

国税庁は7月2日に相続税や贈与税の課税の際に土地等の評価の算定基準となる平成30年分の路線価を発表しました。

全国約32万4千地点の標準宅地の平均路線価は前年比0.7%プラスとなり、ここ最近では3年連続の上昇となっています。

平成30年分の路線価日本一は、3年連続で東京都中央区銀座5丁目銀座中央通りとなり、1平方メートルあたりの路線価は4,432万円。バブル期の路線価を超えて過去最高を更新しました。一方東京以外ではバブル期に比べると、大阪、名古屋、横浜でも5割程度、京都等は2~3割程度にとどまっているようです。

都道府県別で平均路線価が上昇したのは東京、大阪、愛知など18都道府県です。因みに平成29年は13都道府県が上昇していましたので、背景には前年よりも不動産売買が活発化し、都市部を中心に上昇傾向が広がってきているようです。一方では29県で平均路線価が下落しており、特に青森、兵庫、宮崎等7県で下落率も前年より大きくなっています。結果、首都圏と地方圏の地価の価格差はますます広がってきています。

国税庁のホームページより過去7年の路線価を見ることができますので、自宅前等の路線価を7年前から比較することにより、過去の傾向や今後の予想がわかってくるかもしれません。路線価は単年で見るよりも時系列比較で見る習慣を心掛けてみてはどうでしょうか。

都市部では来年以後、少なくとも2020年の東京オリンピックまでは地価が高騰するのではないかと噂されています。地価が上昇すれば当然路線価も上昇しますので、来年以後も路線価が上昇すると予想されるお方は土地の年内贈与を検討されてみてはどうでしょうか。贈与の方法も相続時精算課税制度等、税負担を抑える方法もございますので、当法人へお気軽にご相談ください。

税理士法人村上事務所 谷田哲章