老人ホーム入居でも対象 空き家譲渡特例

ニュースでも取り上げられている、全国に増加する空き家問題。
老朽化した空き家の増加により、倒壊の危険や治安の悪化など、周辺地域に悪影響を及ぼすとして、社会問題となっています。
この問題を解決するために、空き家譲渡特例があります。

 


空き家譲渡特例とは

いわゆる空き家譲渡特例とは、被相続人が一人暮らしをしていた不動産(空き家や敷地)を譲渡価額1億円以下で売却した際の譲渡所得の金額から、最大3,000万円を控除できる特例です。
対象となるには、空き家を譲渡する際に、一定の耐震基準を満たす必要がある等、いくつかの要件があります。

 


空き家譲渡特例の対象となる譲渡資産の要件

①昭和56年5月31日以前に建築された建物である

倒壊の危険を解決するために、建物の耐震基準を満たすリフォームを行った後に譲渡するか、建物を壊して土地のみを譲渡しなければなりません。
 

②相続開始直前まで、被相続人が一人暮らしをしていた
被相続人に同居人がいなかった場合に限り対象となります。
 

③相続から譲渡までの間、ずっと空き家のままである
相続した後に、事業用に使用、または賃貸等の貸し付けに利用せず、譲渡するまでずっと空き家である必要があります。


その他の要件・詳細については下記URLでご確認ください。
■国税庁
No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

 

 


老人ホーム入居等の特定事由について

被相続人が相続開始直前に家屋に住んでいなくても特例の対象となる場合があります。

・要介護認定等を受けて老人ホームや介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅等に入所した場合
・障害者支援区分の認定を受けて障害者支援施設等に入所した場合

なお、老人ホームなどの施設への入所ではなく、介護のために親族の家に住んでいた場合は、対象とはなりません。

 

また、被相続人が老人ホームなどの施設に入居している間の空き家については以下のような要件を満たす必要があります。
・相続開始直前まで被相続人の家財の保管等に使用されていた
・事業・貸付に使用されていない
・被相続人以外の者の居住の用に供されていない

 

申請時には、被相続人が要介護認定等を受けていたことを証明する書類や、老人ホーム等入所時の契約書、空き家の電気・水道・ガスの契約名義(支払人)及び使用中止日が確認できる書類等が必要となります。

配偶者居住権の賃料収入と経費算入

令和2年4月1日に始まった配偶者住居権に基づき、自宅の所有者の許可を得れば、配偶者は使用収益が可能となり、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。
その場合の賃料は、配偶者の不動産所得と考えられ、配偶者が負担すべき自宅に係る固定資産税等は必要経費に算入できます。

 


配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった際に、残された配偶者が亡くなった人が所有していた建物に、賃料の負担がなく、引き続き住み続けることができる権利です。
残された配偶者の居住権を保護するため、令和2年4月1日以降に亡くなられた方の相続から新たに認められました。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても、一定の要件の下、居住権を取得することで、亡くなった人が所有していた建物に引き続き住めるようにするものです。

 

残された配偶者は、亡くなった人の遺言や、相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって、配偶者居住権を取得することができます。
配偶者居住権を設定することで、自宅の所有権を子に相続させても、配偶者は自宅に居住し続けることが権利上可能なうえ、自宅の所有権を取得しない代わりに、配偶者は自宅以外の、預貯金等の財産をより多く相続できることになり、今後の生活費を確保しやすくなる等のメリットがあります。
また、所有権を持つ子の許可を得れば、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。

 

 


固定資産税と減価償却費

配偶者はその建物の通常の必要費を負担するものとされており、固定資産税は配偶者が負担すべき費用に当たるようです。
そのため、配偶者居住権に基づき、配偶者が自宅を賃貸する場合、配偶者が負担すべき固定資産税は自宅の賃貸に係る必要経費として、配偶者の賃料収入から差し引くことができます。
一方で、不動産所得計算上、減価償却費は必要経費に算入できません。
減価償却費は建物の所有者である子の必要経費に算入されます。

 

しかし、建物の所有者である子が、同居し、日常の生活の資を共にしている生計一の場合、本来は子の必要経費に算入されるべき自宅の減価償却費を配偶者の必要経費に算入できます。

相続税の障がい者控除について

 

 


近年、相続税の申告において、小規模宅地等の特例の細かい税制改正が毎年のように行われており、特例、控除等の適用要件が年々複雑化しているように思われます。今回は基本的な内容ですが、意外と注意が必要な項目を紹介させていただきます。

(1)相続税の障がい者控除

   今回の内容は相続税の障がい者控除です。相続税の障がい者控除は、被相続人(亡くなられた人)が障がい者に該当するかどうかで適用するのではなく、相続人(相続等により財産を取得した人)が障がい者に該当するかどうかで適用します。この控除は税額の軽減になりますので算出税額から税額控除を行うため、場合によっては大きな税額の減額になることがあります。

(2)内容

相続人が85歳未満で障がい者に該当するときは、相続税の額から一定の金額(  詳細(4))を差し引きます。

(3)障がい者控除が受けられる人

次のすべてに該当する人です。

①相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ被相続人が一時居住者被相続人又は非居住者相続人である場合を除きます。)

②相続や遺贈で財産を取得した時に障がい者である人

③相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人であること

※ここで注意すべき点は

1.障がい者控除を受ける人が相続や遺贈により財産を取得していることです。財産を全く取得していなければ、障がい者控除を受けることができません。1円でも取得している場合は控除限度額に満たなくても、要件を満たす他の相続人から控除できます。

2.障がい者控除を受ける人が法定相続人であることです。法定相続人でない人が遺贈で財産を取得した場合や生命保険の受取人に指定されていて死亡保険金を受け取った場合等は適用できません。

(3)障がい者控除の額

控除額の計算方法は、下記の通りとなります。

(85歳-相続開始時の年齢)✕10万円(特別障がい者の場合は20万円)

仮に、相続開始時の年齢が40歳であれば、

(85歳-40歳)✕10万円(特別障がい者の場合は20万円)= 450万円の税額が相続税額から控除されます。

障がい者、特別障がい者どちらに該当するかについては、細かい内容なので、国税庁のホームペ-ジ等を参照してください。

また、障がい者控除額が、その障がい者本人の相続税額より大きいため控除額が引ききれないことがあります。この場合は、その引ききれない部分をその障がい者の扶養義務者の相続税額から控除します。扶養義務者とは、配偶者、直系血族(親、子等)及び兄弟姉妹の他、3親等内の親族のうち一定のもの(条件あり)となっています。 「相続税法基本通達1の2-1」より

(4)相続税申告においては、相続人が障がい者に該当すれば、障がい者控除の適用が あることを覚えていると、遺産分割を協議するときにも役立つと思われます。

また、障がい者控除については法定相続人すべての状況を確認する必要がありますので、相続人代表がまとめて申告する場合等は各相続人の状況を把握し該当する人がいないか注意する必要があります。

詳しい内容につきましては、税理士法人 村上事務所までご相談ください。

中森 徹

 

平成30年分路線価発表により検討すべきこと

国税庁は7月2日に相続税や贈与税の課税の際に土地等の評価の算定基準となる平成30年分の路線価を発表しました。

全国約32万4千地点の標準宅地の平均路線価は前年比0.7%プラスとなり、ここ最近では3年連続の上昇となっています。

平成30年分の路線価日本一は、3年連続で東京都中央区銀座5丁目銀座中央通りとなり、1平方メートルあたりの路線価は4,432万円。バブル期の路線価を超えて過去最高を更新しました。一方東京以外ではバブル期に比べると、大阪、名古屋、横浜でも5割程度、京都等は2~3割程度にとどまっているようです。

都道府県別で平均路線価が上昇したのは東京、大阪、愛知など18都道府県です。因みに平成29年は13都道府県が上昇していましたので、背景には前年よりも不動産売買が活発化し、都市部を中心に上昇傾向が広がってきているようです。一方では29県で平均路線価が下落しており、特に青森、兵庫、宮崎等7県で下落率も前年より大きくなっています。結果、首都圏と地方圏の地価の価格差はますます広がってきています。

国税庁のホームページより過去7年の路線価を見ることができますので、自宅前等の路線価を7年前から比較することにより、過去の傾向や今後の予想がわかってくるかもしれません。路線価は単年で見るよりも時系列比較で見る習慣を心掛けてみてはどうでしょうか。

都市部では来年以後、少なくとも2020年の東京オリンピックまでは地価が高騰するのではないかと噂されています。地価が上昇すれば当然路線価も上昇しますので、来年以後も路線価が上昇すると予想されるお方は土地の年内贈与を検討されてみてはどうでしょうか。贈与の方法も相続時精算課税制度等、税負担を抑える方法もございますので、当法人へお気軽にご相談ください。

税理士法人村上事務所 谷田哲章

特定生産緑地制度

生産緑地制度とは、簡単に言えば、「都会の地価の高い市街化区域の中で農業を継続できる制度」であります。ロッキード事件で有名な田中元首相が日本列島改造論を唱えて以来、日本の土地の価額は急上昇し、都市部の農地は瞬く間に宅地へと変貌していきました。もし皆さんが農業に従事していたとして、不動産業者から一生生活していけるような札束を積まれたらどうするでしょう。日本の非効率的な零細農業では、農業経営で利益を計上することはまず不可能です。一方で、農業は3K(キツイ、キタナイ、キケン)に近い業種であり、農家には嫁もなかなか来てもらえない、と言われる時代もありました。このような農業を取り巻く環境の中で、都市部の農地の転用は劇的に進みました。結果として、都市部では緑がなくなり、住環境が悪化するなど多くの都市問題を招くこととなります。そこで、農地の宅地並み課税の実施に伴い、平成4年に、計画的に保全していく農地と宅地への転用を進めていく農地を明確にし、保全する農地への対応として改正生産緑地法が制定されました。

生産緑地は、市街化区域内の500㎡以上の農地で農業に従事する人が、市区町村に申請することにより、指定を受けることができます。生産緑地の指定を受けると、30年間農地として管理することが義務付けられますが、その一方で固定資産税等が大幅に減免され、また相続人が農業経営を承継することを条件に相続税の納税猶予制度を適用することも可能です。すなわち、生産緑地であれば、都市部の地価の高い地域にあっても、税制面で大きく優遇されることにより保有コストが下がり、農業を継続することができる、と言うことになります。

現在指定されている生産緑地は、そのおよそ80%が平成34年(2022年)に指定から30年を経過する、と言われています。30年を経過すると、農業に従事する人には次の3つの選択肢があります。                                                    ①市区町村に買取申し出を行い、市区町村が買収せず、買取斡旋をしても買収する者がいない場合には、晴れて(?)生産緑地の指定が解除される。                               ②市区町村に買取申し出を行わず、そのまま従来の生産緑地として継続する。                               ③市区町村に特定生産緑地の申請を行い、指定を受ける。

平成30年4月1日より、③に記載した特定生産緑地制度が施行されています。

①を選択した場合は農地が生産緑地ではなくなるので、即座に固定資産税が宅地並みになったり、相続税の納税猶予制度が利用できなくなる(既に相続が発生し納税猶予制度を利用中である場合には、猶予期限が到来し相続税及び利子税の納付が必要となります)ことはすぐに理解いただけることと思います。

では②と③は何が違うのでしょうか。まず、相続税の納税猶予制度についてみてみましょう。現に相続税の納税猶予制度を利用中である場合には、どちらの場合も農業経営を継続している限り、期限の確定とはなりません。納税猶予は継続されます。しかし、異なるのは現在の農業従事者が亡くなり、新たな相続が発生した場合です③は次の相続人も納税猶予制度を引き続き適用を受けることを選択できますが、②の場合はできません。つまり、特定生産緑地を選択しないと、次の相続人は相続税の納税猶予制度の適用を受けられない、ということです。

次に固定資産税です。③の場合は固定資産税の大幅な軽減は、これまで通り継続されます。一方②の場合は、指定から30年経過している、ということでいつでも買取申し出ができるため、固定資産税は宅地並み課税となります(但し、激変緩和措置により、5年間にわたり段階的に引き上げられることとなりそうです)。

新たに定められた、特定生産緑地制度ですが、これは従来の生産緑地制度と同じ義務(農地としての管理を行う)を有すると共に税制上の特典(固定資産税の軽減及び相続税の納税猶予制度の適用等)を受けられる制度で、10年ごとに期限が到来し、更新の判断をすることができます。従来の30年間が10年間に短縮されたため、かなり選択しやすい制度となりました。一時に集中して宅地化されることを防ぎたいという政府の意思の表れだと考えられます。

また申請するうえで非常に大切なポイントとして、生産緑地の指定から30年経過するまでに申請しなければ、いかなる理由があっても以降の特定生産緑地指定はできない、があります。

平成34年(2022年)はすぐにやってきます。また、特定生産緑地制度は既に開始されているため、事前に指定の申請を行うことは可能です。該当する生産緑地で農業に従事されておられる方は、税理士法人村上事務所まで早めのご相談をお願いいたします。

税理士法人村上事務所  松下真也