特定生産緑地制度

生産緑地制度とは、簡単に言えば、「都会の地価の高い市街化区域の中で農業を継続できる制度」であります。ロッキード事件で有名な田中元首相が日本列島改造論を唱えて以来、日本の土地の価額は急上昇し、都市部の農地は瞬く間に宅地へと変貌していきました。もし皆さんが農業に従事していたとして、不動産業者から一生生活していけるような札束を積まれたらどうするでしょう。日本の非効率的な零細農業では、農業経営で利益を計上することはまず不可能です。一方で、農業は3K(キツイ、キタナイ、キケン)に近い業種であり、農家には嫁もなかなか来てもらえない、と言われる時代もありました。このような農業を取り巻く環境の中で、都市部の農地の転用は劇的に進みました。結果として、都市部では緑がなくなり、住環境が悪化するなど多くの都市問題を招くこととなります。そこで、農地の宅地並み課税の実施に伴い、平成4年に、計画的に保全していく農地と宅地への転用を進めていく農地を明確にし、保全する農地への対応として改正生産緑地法が制定されました。

生産緑地は、市街化区域内の500㎡以上の農地で農業に従事する人が、市区町村に申請することにより、指定を受けることができます。生産緑地の指定を受けると、30年間農地として管理することが義務付けられますが、その一方で固定資産税等が大幅に減免され、また相続人が農業経営を承継することを条件に相続税の納税猶予制度を適用することも可能です。すなわち、生産緑地であれば、都市部の地価の高い地域にあっても、税制面で大きく優遇されることにより保有コストが下がり、農業を継続することができる、と言うことになります。

現在指定されている生産緑地は、そのおよそ80%が平成34年(2022年)に指定から30年を経過する、と言われています。30年を経過すると、農業に従事する人には次の3つの選択肢があります。                                                    ①市区町村に買取申し出を行い、市区町村が買収せず、買取斡旋をしても買収する者がいない場合には、晴れて(?)生産緑地の指定が解除される。                               ②市区町村に買取申し出を行わず、そのまま従来の生産緑地として継続する。                               ③市区町村に特定生産緑地の申請を行い、指定を受ける。

平成30年4月1日より、③に記載した特定生産緑地制度が施行されています。

①を選択した場合は農地が生産緑地ではなくなるので、即座に固定資産税が宅地並みになったり、相続税の納税猶予制度が利用できなくなる(既に相続が発生し納税猶予制度を利用中である場合には、猶予期限が到来し相続税及び利子税の納付が必要となります)ことはすぐに理解いただけることと思います。

では②と③は何が違うのでしょうか。まず、相続税の納税猶予制度についてみてみましょう。現に相続税の納税猶予制度を利用中である場合には、どちらの場合も農業経営を継続している限り、期限の確定とはなりません。納税猶予は継続されます。しかし、異なるのは現在の農業従事者が亡くなり、新たな相続が発生した場合です③は次の相続人も納税猶予制度を引き続き適用を受けることを選択できますが、②の場合はできません。つまり、特定生産緑地を選択しないと、次の相続人は相続税の納税猶予制度の適用を受けられない、ということです。

次に固定資産税です。③の場合は固定資産税の大幅な軽減は、これまで通り継続されます。一方②の場合は、指定から30年経過している、ということでいつでも買取申し出ができるため、固定資産税は宅地並み課税となります(但し、激変緩和措置により、5年間にわたり段階的に引き上げられることとなりそうです)。

新たに定められた、特定生産緑地制度ですが、これは従来の生産緑地制度と同じ義務(農地としての管理を行う)を有すると共に税制上の特典(固定資産税の軽減及び相続税の納税猶予制度の適用等)を受けられる制度で、10年ごとに期限が到来し、更新の判断をすることができます。従来の30年間が10年間に短縮されたため、かなり選択しやすい制度となりました。一時に集中して宅地化されることを防ぎたいという政府の意思の表れだと考えられます。

また申請するうえで非常に大切なポイントとして、生産緑地の指定から30年経過するまでに申請しなければ、いかなる理由があっても以降の特定生産緑地指定はできない、があります。

平成34年(2022年)はすぐにやってきます。また、特定生産緑地制度は既に開始されているため、事前に指定の申請を行うことは可能です。該当する生産緑地で農業に従事されておられる方は、税理士法人村上事務所まで早めのご相談をお願いいたします。

税理士法人村上事務所  松下真也

 

 

 

事業承継税制の平成30年改正について

事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(円滑化法)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

平成30年度税制改正では、この事業承継税制について、これまでの措置( 以下「一般措置」 )に加え、施行日以後5年以内に特例承認計画書を提出し、10年以内に実際に承継を行う者を対象とし、抜本的に拡充された特例措置( 以下「特例措置」 )が創設されました。

(参考)特例措置と一般措置の比較

特例措置

一般措置

 

事前の計画策定等

5年以内の特例承認計画の提出

平成30年(2018年) 4月1日から

平成35年(2023年) 3月31日迄

 

不要

 

適用期限

 

10年以内の贈与・相続等

平成30年(2018年) 1月1日から

平成39年(2023年) 12月31日迄

 

なし

対象株数

全株式

総株式数の最大3分の2迄

納税猶予割合

100%

贈与:100% 相続:80%

承継パターン

複数の株主から

最大3人の後継者

複数の株主から

1人の後継者

雇用確保要件

弾力化

承継後5年間

平均8割の雇用維持が必要

事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除

あり

なし

 

相続時精算課税の適用

60歳以上の者から

20歳以上の者への贈与

60歳以上の者から

20歳以上の推定相続人・孫への贈与

 

・税制適用の入口要件を緩和し、事業承継に係る負担の最小化を図っています。

一般措置においては、納税猶予の対象になるのは、発行済議決権株式総数の3分の2までであり、相続税の納税猶予割合は80%とされているため、実際に猶予される額は全体の約53%(=2/3 ×80%)にとどまることになっていましたが、改正によって、対象株式数の上限を撤廃し、議決権株式の全てを猶予対象とし、また納税猶予割合も100%に拡大することで、承継時の税負担をゼロとすることが可能となりました。

承継パターンとして、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となり、中小企業経営の実状に合わせた多様な事業承継を支援する制度となっています。

相続時精算課税の適用として、一般措置では、相続時精算課税制度は原則として直系卑属への贈与のみが対象となっているため、事業承継税制の適用を受ける場合には、相続時精算課税制度の適用範囲を拡大することにより、猶予取消時に過大な税負担が生じないような枠組みが設けられました。

・税制適用後のリスク軽減

雇用確保要件として、一般措置においては、事業承継後5年間平均で、雇用の8割を維持することが求められ、仮に雇用8割を維持できなかった場合には、猶予された贈与税・相続税の全額を納付する必要があります。そのため、制度利用を躊躇する要因となっていた雇用要件を実質的に撤廃することにより、雇用維持要件を満たせなかった場合でも納税猶予を継続可能にする方向への見直しが図られています。(5年平均8割を満たせなかった場合には理由報告が必要。経営悪化が原因である場合等には、認定支援機関による指導助言が必要です。)

又、一般措置においては、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与・相続税が課税されるため、過大な税負担が生じうる可能性がありましたが、特例措置においては、売却額や廃業時の評価額を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免する措置がとられ、経営環境の変化による将来の不安の軽減を図っています。

 

上記の点が主だった改正点ですが、拙速に結論を出すのではなく、この制度を使うか否かは、会社の事業承継等についての未来予想図を描きながら、対象となる非上場株式等の評価額の算出を含む、先代経営者等に係る総合的な相続税・贈与税の試算を踏まえてご判断頂きたいと思います。

税理士法人 村上事務所 河村

孫を死亡保険金の受取人にした場合の注意点~せっかくの生前贈与に相続税が課されてしまうとき~

相続により生命保険金を受け取った場合には、相続人1人につき500万円の非課税の規定が適用できます 「生命保険金等の非課税規定」。例えば、被相続人(亡くなられた人)の妻と子供2人が相続人の場合は、相続人が3人のため500万円×3人=1,500万円まで相続財産から控除されます。

ここで注意すべき点は、孫が死亡保険金を受け取った場合、上記のケースでは、孫は相続人に該当しないため、相続ではなく遺贈により保険金を受け取ったことになります。生命保険金等の非課税の適用は相続人が保険金を受け取った場合ですので、遺贈により相続人以外の人が保険金等を受け取った場合は生命保険金等の非課税の適用はありません。

したがって孫が保険金を受け取った場合は非課税の適用はなく、全額を相続財産に含めなければならなくなります。全体の相続財産によっては孫の保険金に相続税が課税されます。

さらに孫に生前に贈与があった場合は、生命保険金を受け取ったことにより「相続開始前3年以内に被相続人から贈与があった場合の生前贈与加算」の規定も適用されます。「相続または遺贈により財産を取得した者が相続開始前3年以内に被相続人から贈与(相続時精算課税、居住用財産の配偶者への贈与を除く)により財産を取得したことがある場合、贈与により取得した財産を相続財産に加算する」という規定があるからです。

簡単に言うと、孫が被相続人(亡くなられた人)から死亡保険金を受け取り、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた場合は贈与を受けた財産も相続財産に加算しなければなりません。(死亡保険金を受け取っていなければ相続または遺贈により財産を取得していないので相続開始前3年以内の生前贈与加算の適用はありません。)このように思わぬところから相続財産が増える事態になってしまいますので注意が必要です。

また、この場合ですと孫に相続税が発生したときは、 「相続税額の2割加算の制度」             も適用されます。

みなさまも、生命保険金の受取人の再確認をされてはいかがでしょうか。

生命保険金の受取人を孫にすることについては、個々の状況により間違った考えではないと思いますが、相続開始前3年以内の贈与加算の適用があることに十分注意してください。

受取人の変更等のご相談がありましたら、お気軽に税理士法人村上事務所までご連絡下さい。

税理士法人 村上事務所 中森 徹

相続税における土地の評価で財産評価基本通達によらず、鑑定評価が認められ評価額を下げることが出来たケース

皆様、いつも当ブログをご覧いただきありがとうございます。

さて早速本題ですが・・・

○相続税の計算において、土地の評価は通常の場合「財産評価基本通達」というものに書かれている内容に基づいて行います。

○しかし、「評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の事情がある」ときには、評価通達によらない方法(鑑定評価など)で評価することが可能となっています。

○ではこの「評価通達によっては適正な時価を算定することが出来ない特別の事情」とは、はたしてどんな「事情」が考えられるでしょうか?

 

◎一例として「2017.06.15大阪地裁判決、平成24年(行ウ)第259号」があります。要約すると、

・道路に接していない「無道路地」である雑種地が本件土地。

(無道路地の評価では、通路開設費用相当額を控除することが出来る

-無道路地減額補正)

・本件土地への通路開設費用相当額が912万円であり、

・本件土地を評価通達で評価した価額549万円(無道路地減額補正前)を上回っている

・無道路地減額補正率は最大40%だが、通路開設費用相当額はこれを超えている。(549万円×40%=約220万円しか無道路地の減額が出来ない)

・よって本件土地は、「評価通達では接道義務を満たしていないことを十分に反映することができず、これは評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の事情ということができる。

・したがって本件土地の評価は、不動産鑑定評価による価格(本件の場合は220万円の鑑定評価を納税者側が提出していた)と認めるのが相当である。

 

・・・いかがでしょうか?

本件における通路開設費用相当額や鑑定評価額の根拠はハッキリしませんが、この裁判例では、

・無道路地に通路を開設する費用を適切に見積もり、

・それが土地の評価をも上回る状態であり、

・相続人が提出した鑑定評価額が、裁判所に妥当と認められた、

・・・という状況がそろったため鑑定評価額が認められたものと考えられます。

 

※今回この裁判例を紹介したのは、「土地の評価は評価通達に沿ってだけ行えば良いものでは無い!

・・・ことを書いておきたかったからです。

本ブログをご覧になられた方の中にも、相続(これから相続を迎える方も含めて)において、評価通達に書いてある通りの評価方法だと実勢価格よりもはるかに高い評価となってしまう不動産をお持ちの方がおられると思います。

当事務所では、豊富な経験提携士業との連携により不動産の「適正な時価」を探るべく日々業務を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

(税理士法人村上事務所 片山洋)

1人が複数の人と養子縁組することはできるのでしょうか?

相続対策として、養子縁組を検討される方もいらっしゃるのではないでしょうか?

その場合、お孫さんや長男のお嫁さんを養子にとお考えになられることが多いですね。

では、既に養子縁組でどなたかの養子となっている人が、また別の人の養子となることは可能なのでしょうか?

例えば、既に嫁ぎ先の義父の養子となっている場合に、独身の叔父から子供がいないため養子になってほしいと言われたときに、義父と叔父の両方の養子となることは可能なのでしょうか?

それとも、叔父の養子となるためには、義父との養子縁組は解消しないといけないのでしょうか?

 答えは、両方(複数の人)の養子となることが可能です。

養子縁組には、婚姻における重婚の禁止(民法732条)のような禁止規定はありません。

1人に養親が何人いてもOKなのです。

養子縁組を離縁しないかぎり、養子としての身分は存続することとなります。

次に、戸籍 はどうなるのでしょうか?

例えば、未婚の人が複数の人(例えば二人)と養子縁組をした場合は、

実親の戸籍から除籍され、

一人目の養親の戸籍に入籍

一人目の養親の戸籍から除籍され、

二人目の養親の戸籍に入籍

となります。

一人目の養親の戸籍から除籍されますが、そのことをもって養子縁組が解消されるわけではありませんので、1人目の養親の養子としての身分はそのままとなります。

養子縁組されている養親・養子の戸籍で除籍の記載があるときは、離縁による除籍なのか?他の人と養子縁組による除籍なのか?しっかりと内容を確認する必要がありますね。

養子縁組は、お金のかからない最も有効な相続税対策の一つです。

ただし、家族関係が良好であること、将来も良好であろうことが前提となります。

良好であれば問題はありませんが、例えば長男のお嫁さんを養子にしたが、長男夫婦が離婚してしまったり、養子と養子以外の相続人が仲たがいして遺産分割が整わなかったり 、など思惑どおりにことがすすまないことも・・・。

安易な養子縁組はお勧めしませんが、メリットとデメリットをしっかりとご承知の上での養子縁組は、相続税対策としてはかなり有効な手段となり得ますね。

さて、ここまでお読みいただきありがとうございました。

いかがでしたでしょうか?

養子 縁組は、財産の相続(事業の承継)とその相続税の対策としてメリットも多くありますが、デメリットもまたあります。

子供たちが仲良く財産を分割(事業を承継)してくれるのかご心配だったり、相続税の負担がご心配だったりされる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?

具体的なメリットとデメリットはどのようなものなのか?

養子縁組をした方がよいのか?やめた方がよいのか?

誰を養子にしたらよいのか?

相続対策をしたいけれどどうしたらよいのかわからない

などご不安がおありでしたら、一度、お近くの税理士にご相談されることをお勧めします。

ご自身で本を読んだり、インターネットで情報収集されることもとても大切です。

しかし、相続は各ご家庭のご事情により千差万別、個別具体的なこととなる場合が多いです。

ご自身のご家庭にあったアドバイスを得られるように経験豊かな専門家にご相談されることで、よりご安心いただけるのではないでしょうか?

 

当事務所は、大阪府箕面市という土地柄、相続案件も数多く手掛けてまいりました。

ぜひご相談いただき、ご不安の解消にお役に立てましたら幸いです。

 

税理士法人村上事務所
村上 幸穂