フリーランス法と取引条件明示義務

2024年11月1日に施行されたフリーランス法により、発注事業者は、業務委託時に、フリーランスとの取引内容を明確にし、書面または電子的記録(メール・PDF等)で契約内容を交付する義務があります。
口約束や不明確な契約条件によるトラブルを防ぐことが目的です。

 


フリーランス法とは

フリーランス法は、フリーランスとして働く個人を保護し、適正な取引環境を整備するために制定された法律です。
フリーランスと発注業事業者との取引において、以下のような点を改善・保護することを目的としています。


適正な取引の確保

・曖昧な契約や不当な取引条件の是正
・書面または電磁的記録による契約内容の明確化


報酬の適正化

・報酬の支払遅延防止(原則60日以内の支払い義務)
・報酬減額・不当な値引きの禁止


ハラスメント防止

・フリーランスに対するパワハラ・セクハラの防止義務
・苦情処理体制の整備


 

【発注事業者とフリーランスの定義】
■発注事業者
 業務委託事業者・・・・従業員なしの個人事業者・一人社長
 特定業務委託事業者・・従業員又は役員がいる個人事業者・法人


■フリーランス

 特定受託事業者・・・・従業員なしの個人事業者・一人社長

 

 


フリーランス法における義務と禁止行為

フリーランス法では、フリーランスと発注事業者の取引を公正にし、フリーランスが働きやすい環境を整備するために、以下のような義務と禁止行為が定められています。


【義務】

■取引条件の明示義務
発注事業者は、フリーランスとの取引内容を明確にし、書面または電子的記録(メール・PDF等)で契約内容を交付しなければなりません。

■報酬の支払い義務(60日以内の支払い)
フリーランスに対する報酬は、業務の完了日から原則60日以内に支払わなければなりません。

■ハラスメント防止義務
発注事業者は、フリーランスに対するハラスメントを防止する措置を講じる必要があり、相談窓口の設置などの具体策が求められます。


【禁止行為】

■報酬の減額
不当に報酬を減額することは禁止されています。

■不当な取引の禁止
フリーランスの立場を不当に弱めるような行為は禁止されています。
例:一方的な契約変更・業務追加の強要、契約解除時の一方的な不利益など


【その他(違反時の措置)】
発注事業者が上記の義務・禁止行為に違反した場合、公正取引委員会・厚生労働省などが調査を行い、指導・勧告・公表・命令を行う場合があります。


 


取引条件の明示

フリーランス法では、発注事業者がフリーランスとの取引内容(給付の内容・報酬額・支払期日など)を明確にし、書面または電子記録で契約内容を交付することを義務付けています。
口約束や不明確な契約条件によるトラブルを防ぐことが目的です。


契約内容の交付は、以下の方法で行うことが認められています。


・書面
・電子メール
・SNSのメッセージ
・チャットツール(LINEやSlackなど)


口頭のみでの契約はNGで、必ず記録に残る形式で交付しなければなりません。
なお、電磁的方法で明示した場合であっても、フリーランスから書面の交付を求められたときは、一定の場合を除き、書面を交付しなければなりません。


また、取引条件の明示義務は、フリーランス同士の取引も対象であるため、発注事業者がフリーランスである場合にも義務が課されます。


■中小企業庁
ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law_05.pdf

スキマバイトも賃上げ促進税制の対象に

空いた時間や隙間時間などの短時間で行える「スキマバイト」が、新しい働き方として注目を集めています。
人材不足を短期間で補えることから、アプリ経由でギグワーカー(スキマワーカー)を雇用している企業も増加しているようです。
短時間・短期的な仕事が多いイメージですが、賃金台帳に記載されているギグワーカーであれば、賃上げ促進税制における「国内雇用者」に該当するようです。

 


国内雇用者とは

企業や個人事業主に雇われており、国内の事業所で作成された賃金台帳に記載された労働者を指します。
役員は対象外となりますが、賃金台帳に記載されていれば、パートやアルバイト、日雇い労働者も国内雇用者となります。
 

■国内雇用者に含まれる範囲

・正社員
 フルタイムで勤務し、安定した雇用契約を結んでいる人。

・契約社員・派遣社員
 期限付きの契約で雇用されている人

・パート・アルバイト
 短時間勤務や特定の条件で働く人

・日雇い労働者
 日々雇用契約を結んで働く人

・外国人労働者
 日本国内で合法的に働いている外国人(技能実習生、特定技能労働者など)

 


賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、事業主が従業員の給与を前年度より一定以上引き上げた場合に、引き上げた額の一部を法人税から控除できる仕組みです。
企業が積極的に賃金引き上げを行うことを促進し、労働者の所得向上と経済の活性化を図ることを目的としています。

【賃上げ促進税制のメリット】
この制度の活用により、企業は税負担を軽減しつつ、従業員のモチベーション向上や人材確保も期待できます。

・企業の税負担軽減
賃上げを実施し、一定の条件を満たせば、法人税の控除を受けられるため、人件費のコスト増加を抑えることができます。

・従業員のモチベーション向上
従業員の所得が増えることで、生活水準だけでなく、仕事に対するモチベーションや生産性の向上にもつながります。

・企業のイメージアップをはかる
賃上げを行うことで、「従業員を大切にする企業」として企業イメージが向上し、人材の確保や、優秀な人材の流出防止も期待できます。

・経済全体への効果
給与が増加すれば消費が活発となり、経済全体の成長が促進されます。

 


賃金台帳への記載でギグワーカーも賃上げ促進税制の対象に

賃金台帳とは、事業主が労働者に対して支払う賃金の詳細を記録した帳簿のことです。
日本では労働基準法に基づき、すべての事業主に対して賃金台帳の作成・保存が義務付けられています。
労働者の賃金額やその賃金額の計算の基礎となる事項などが記載等されていれば基本的に、法定の様式は決まっていません。


ギグワーカーをスキマバイトのアプリ経由で雇用した場合、その情報はアプリの運営会社から企業側に対して、賃金額等の所定の事項が記載された明細書が発行されます。
その明細書の内容を、自社の賃金台帳に記載することで、そのギグワーカーは国内雇用者に該当するとのことです。

スマホ用電子証明書

2016年1月にマイナンバーカードの交付が開始され、2024年11月末の時点で、保有枚数率は全国で75%を超えている一方で、保有している人の携行率は46%となっており、定着するに至っていないのが実情のようです。
マイナンバーカードは、住民票の写しなどの公的な証明書の取得や確定申告、健康保険証、身分証明書として利用できます。
通常は、これらのサービスを利用するには、マイナンバーが記載された顔写真付きのカードの持参が必要ですが、一部の行政サービスでは、マイナンバーカードの代わりに、スマホ用電子証明を利用することが可能になりました。


■総務省
マイナンバーカード交付状況について
https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kofujokyo.html

 


スマホ用電子証明とは

スマホ用電子証明書とは、2023年年5月から開始したスマートフォン向けの公的個人認証サービスです。
スマートフォンへ電子証明書機能を搭載することで、マイナンバーカードを持ち歩くことなくスマートフォンだけで様々なマイナンバーカード関連サービスの利用、申し込みが行えます。


先に書いた、低い携行率からも伺えるように、マイナンバーカードを自宅で貴重品として保管している人も、スマートフォンだけでマイナンバーのサービスを利用できるようになります。


スマホ用電子証明の気になる安全性ですが、機微な個人情報はスマートフォン内に記録されない、不正に情報を盗取しようとする各種手法に対し、自動的に記録情報を消去する機能等の対抗措置の実施など、暗号技術やさまざまなセキュリティ対策が施されているようです。

 


スマホ用電子証明書が利用可能なサービス

現在、スマホ用電子証明書が利用可能なサービスには下記のようなものがあります。


●子育て支援、引越しの手続き
●薬剤・健診情報、母子健康手帳の自己情報の閲覧
●銀行・証券の口座開設、携帯電話申込、キャッシュレス決済申し込みなど、民間のオンラインサービス
●住民票の写しをはじめとする市区町村の各種証明書のコンビニ交付


また、今後開始される予定のサービスには次のようなものがあります。


●e-Taxの確定申告(2025年1月より)
●健康保険証


■デジタル庁
スマホ用電子証明書搭載サービス
https://www.digital.go.jp/policies/mynumber/smartphone-certification
 


搭載方法

スマホ用電子証明書を搭載するには、マイナポータルアプリから申し込みます。
マイナンバーカード用署名用電子証明書のパスワードの入力、マイナンバーカードの読み取り、スマホ用電子証明書のパスワードの設定等を行い申請します。


2024年12月6日時点で、スマホ用電子証明書を搭載できる対象端末は、Androidのみで約350端末となっており、2025年以降も端末の種類は増えていくようです。
また、今後リリース予定のiPhoneにもマイナンバーカード機能が実装されるとのことです。

インボイス発行事業者の相続

インボイス発行事業者の方が亡くなり、インボイス登録を受けていない相続人が事業を承継した場合、インボイス発行事業者としての地位や登録番号は自動的に引き継がれるのでしょうか。
答えはNOです。
しかし、一定の期間を「みなし登録期間」とし、相続人をインボイス発行事業者とみなす措置が設けられており、この間、一時的に相続人は被相続人の登録番号でインボイスを発行することが可能となります。

 


インボイス発行事業者として事業を継続するために必要な手続き

相続人は、「登録申請書」および「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を税務署に提出する必要があります。

 

■消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A
問 15
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

 


インボイスみなし登録期間

相続人が一時的に、被相続人の登録番号でインボイスを発行することが可能となる、みなし登録期間が終了するのは、
・被相続人が亡くなった日の翌日から4ヶ月を経過した日
・相続人が登録申請をした日の翌日

のいずれか早い日となります。


つまり、この「みなし登録期間中」に、遅くとも相続開始から4か月以内に登録申請が必要となります。
みなし登録期間を経過すると、登録申請を行わない限りインボイスの発行が出来なくなるため、インボイス発行事業者として事業を継続する場合には、忘れないように注意が必要です。


なお、日本税理士会連合会は、令和7年度税制改正に関する建議書で、相続から4か月以内に承継人が決定することは少なく相続税の申告期限(10 カ月以内)を迎える頃に決定することが一般的であることを理由に、「被相続人のインボイスみなし登録期間を、相続税の法定申告期限までとすること」としています。


■令和7年度税制改正に関する建議書
24.被相続人のインボイスみなし登録期間を、相続税の法定申告期限までとすること。
https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/whatsnew/doc/kengisyo-R7.pdf

出張旅費等特例

インボイス制度では、帳簿とインボイスの保存が仕入税額控除の要件ですが、会社が従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当などの経費において、通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となる「出張旅費等特例」があります。
出張時の公共交通機関の利用など、インボイスの交付が難しい場面もあるかと思いますが、この特例によって、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

 


出張旅費等特例とは

従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等(以下「出張旅費等」という。)のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存による仕入税額控除が可能となります。
また、出張費に関する社内規程や基準の有無、概算払いによるものか実費精算によるものかにかかわらず、通常必要と認められる部分であれば、出張旅費特例の対象となります。


■インボイス制度における特例②(出張旅費等特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-138.pdf

 


特例を受けるための帳簿記載要件

出張旅費等特例の対象となる取引は、インボイスの保存は不要ですが、以下の事項を帳簿に記載する必要があります。

 

・相手方の氏名または名称
・取引年月日
・取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
・税率の異なるごとに区分した支払対価の額
・摘要欄に特例の適用がある旨の記載


摘要欄への記載以外は、通常通りの帳簿記載です。
特例の適用について、忘れないように摘要欄へ追記しましょう。

 


出張旅費等にかかる適用税率


社内規程に基づいて日当(標準税率10%)を支給した際に、その日当を飲食店等での食事(標準税率10%)ではなく、例えばコンビニで飲食料品を購入(軽減税率8%)した場合、適用税率の調整はどのように行えば良いでしょうか。

会社が支給した日当は、企業は飲食料品の譲渡の対象として支出するものではないため、軽減税率の適用対象となりません。
しかし、従業員が支払った実費については、受領した領収書に基づいて適用税率を判定することになり、軽減税率の対象となります。


■消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)
(日当等の取扱い)問37
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/03-01.pdf

 


出張旅費以外に、帳簿保存のみで仕入税額控除が認められる取引の例

出張旅費以外にも、次のような取引については一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなっています。
 

・適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

・適格請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(上記の公共交通機関取引を除く)

・古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得

・宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

・適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

・適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)