助成金等の受領と消費税の返還

助成金等とは、一定の条件を満たすことで国や自治体から事業者へ支給される資金です。
融資とは異なり、返済の必要がないため、企業活動にはとても有益な制度です。
雇用関係の助成金や、研究開発型の補助金などがあり、条件を満たしていれば複数の助成金等を利用することも可能です。

 


助成金等には消費税分の返還が必要になることがあります

助成金等の支給額には消費税は課されませんが、その助成金等を受領して行う固定資産等の購入は「課税」取引となり、その消費税の返還が必要になることがあります。

助成金等の中には、消費税相当額を含めて支給されるものがあり、こうしたタイプの助成金等を受領した際は、消費税の確定申告後、その助成金等を支給してくれた自治体等へ消費税相当額の返還をしなければなりません。

 

例えば、
助成金110万円全額で機械を購入した場合、110万円のうち10万円は消費税に該当します。
この機械を購入する際に支払った消費税10万円は会社が税務署へ消費税を納める際に差し引いて納税となるため、実質会社としての消費税負担は生じないことになります。
対して助成金として受領した110万円については消費税が課されないため、消費税の納税を行う必要がありません。
これでは国や自治体などから、10万円分の消費税の還付を受けたことと同義になってしまいます。
よって、助成金として受領した110万円のうち、消費税分にあたる10万円を返還する必要があるのです。

 


返還する消費税の税務処理について

●仕入控除税額が確定するのが消費税の確定申告時である

●法人税の取扱いで、前期の取引に係る損失が当期に生じた場合、前期に遡っての修正は不要とされている(法基2-2-16)

上記により、仮に消費税の返還が必要な助成金等を受領した場合であっても、その助成金等を受領した事業年度での特段の処理は不要となっています。

 

先ほどの例でいうと、

①助成金等を受領した事業年度では、助成金110万円の全額を雑収入として収益計上する

②翌事業年度で消費税10万円を自治体等への返還し、雑損失として処理する

 

消費税の返還が必要な助成金等に該当するか否かは、その助成金等の交付要綱等で確認することが必要です。
また、返還時の手続について、例えば、医療法人向けの緊急包括支援交付金(医療分)の場合、返還する消費税額等を記入した報告書の提出を求める自治体もあります。

 

 

 

新型コロナウイルスの影響で、固定資産を稼働停止した際の減価償却

工場の機械や飲食店舗内の厨房設備など、事業用資産であっても、稼働休止しているものは、税務上減価償却資産には該当しないため、原則として、償却費を損金として計上することができません。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、製造ラインを停止するなどして機械の稼働を休止する場合や店舗等の閉鎖があった場合、維持補修が行われ、いつでも稼動できる状態であれば減価償却資産に該当し、償却費を損金計上することができます。

 


いつでも稼働できるような状態に保つことがポイント

休止期間中に必要な維持補修を行っており、いつでも稼動し得る状態にあるものは、例外的に減価償却資産に該当するとされています。

この取扱いは、稼働休止期間がごく短期間である資産について、強いて償却を中断させるまでもないという配慮に基づくものです。

コロナ禍において、平時のように事業として使用することができない機械等について、メンテナンス・補修がされており、生産が開始されたときにいつでも稼働できるような状態に保たれていれば、通常どおり、償却費を損金計上することができます。

 


資産に対する「必要な維持補修」とは

この取扱いの「必要な維持補修」とは、要件ではなく、事業供用に必要な判断要素という意味合いで示されています。
例えば、事業用資産のなかには、電源を入れればすぐに使える照明器具やパソコンなどのように、維持補修が不要なものありますが、このような資産は 維持補修をしなくても直ちに事業供用できる状態にあると言えることから、償却費の損金算入が認められます。
 
また、飲食店等のような店舗における事業用資産の場合、厨房設備が正常に動くようこまめに通電させる、業務用エアコンに不具合がないよう定期的に試運転する、といった行為が「必要な維持補修」に当たると言えるようです。

 

民泊の損失と内部通算

新型コロナウイルス感染症の影響で訪日外国人が減少したこと等により、副業として民泊を行う人に損失が出た場合、その損失は雑所得内であれば内部通算ができます。

 


民泊で得る所得は原則「雑所得」

自分が住んでいる住宅を利用し、住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業(民泊)を行うことによる所得は、原則として雑所得に区分されます。
民泊事業は単なる部屋の貸付ではなく寝具等の貸付やクリーニング、室内清掃や観光案内などのサービス提供も含まれているため、不動産所得ではなく、雑所得に該当します。

 

■国税庁「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/0018005-115/0018005-115.pdf

 


雑所得とは

雑所得とは、以下の9つの所得に当てはまらないものをいいます。

利子所得 預貯金や公社債の利子
配当所得 株式配当金、投資信託の収益分配金
不動産所得 マンションやアパートの家賃収入
事業所得 農業や漁業、製造業、小売業、サービス業などの事業などから生じた所得
給与所得 会社員やアルバイトが勤め先から受け取る給与やボーナス、賃金
退職所得 退職によって勤務先から受け取る退職金
山林所得 山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得
譲渡所得 土地、建物、株式、ゴルフ会員権などを譲渡することによって生ずる所得
一時所得 懸賞金、競馬などの払戻金、拾ったお金の謝礼金などの臨時収入による所得

 

具体的な雑所得の例として

●公的年金等
●非営業用貸金の利子
●副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得)

などが該当します。

 

【民泊はシェアリングエコノミー】
民泊事業は一般的にはシェアリングエコノミーの一形態であり、遊休資産の活用と考えられることから、副業の一形態と考えられています。

 

また、雑所得の特徴として
●青色申告特別控除などの各種特典が無いこと
●利益・黒字の場合には税金が課される
●損失・赤字の場合は他の所得と通算できず単に切り捨てられる

などがあります。

 


雑所得内なら内部通算が可能

雑所得は他の所得区分との損益通算はできませんが、雑所得内での内部通算は可能です。
例えば、原稿執筆による副業収入(=雑所得)があるサラリーマンなら、同様に副業として行う民泊で損失が出た場合、相殺して所得を減らすことができます。

 

なお、不動産賃貸業を営む人が、契約期間の満了等により賃貸契約が終了した不動産を利用して一時的に民泊を行った場合や、民泊のみの所得で生計を立てているなど、その事業が所得税法上の事業として行われていることが明らかな場合に係る所得は、それぞれ不動産所得、事業所得に当たるため、他の所得との損益通算の対象となります。

 

寄附金控除の証明書類

豪雨や震災などの自然災害に対し、個人の支払った義援金が特定寄附金に該当すれば、寄附金控除の対象となります。
支払額は確定申告時に控除できますが、必要書類は義援金の支払先によって異なるので確認が必要です。

 


特定寄附金とは

国や地方公共団体、特定公益増進法人・財務大臣の指定を受けた公益社団法人等の団体に対して行った寄付金をいいます。
すべての寄付が控除対象ではなく、一定の寄付金に限られています。

 

■国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1150.htm

 

 


義援金の支払先を確認

①災害対策本部等

被災した自治体に設置されることから国や地方公共団体に対する寄附金に該当します。

②団体等(日本赤十字社、中央共同募金会、報道機関など)

【注意点】
義援金を取りまとめる“受け皿”という位置付けの場合があり、最終的に義援金配分委員会()等へ送金されるのであれば,国や地方公共団体に対する寄附金①に該当します。

 

義援金配分委員会等とは
災害の被災者を支援するために寄せられた義援金を、被災者に公平・平等に配分するための基準や方法を審議・決定する組織で、被災自治体や義援金受付団体、報道機関などから構成されています。送金先が義援金配分委員会等であるかどうかは団体等の募金趣意書等で確認できますが、確認できなければ団体等に直接確認する必要があります。

 


確定申告時に必要な書類

①災害対策本部等

・受領証

②団体等(日本赤十字社、中央共同募金会、報道機関など)

【専用口座がある場合】

・振込票の控え(又は郵便振替の半券)
・振込口座が義援金の受付専用口座であることを証明する資料(募金要綱、募金趣意書、団体等HPの写しなど)

 

【専用口座がない場合】

・振込票の控え(又は郵便振替の半券)
・振込口座が義援金の受付専用口座であることを証明する資料(募金要綱、募金趣意書、団体等HPの写しなど)
・預り証

 


ふるさと納税を利用した義援金寄付

ふるさと納税を利用して、特定寄附金に該当する義援金の寄付を行うこともできます。
その場合、支払先は自治体となりますので、必要書類は①に該当します。
ふるさと納税ワンストップ特例申請を行わずに、確定申告する場合、発行された受領書を大切に保管してください。

 


寄附金控除の証明書類の一覧表

支払先 申告に必要な書類
災害対策本部等 受領書
団体等
(日本赤十字社、中央共同募金会、報道機関など)
専用口座あり ・振込票の控え(又は郵便振替の半券)
・振込口座が義援金の受付専用口座であることを証明する資料
専用口座なし ・振込票の控え(又は郵便振替の半券)
・振込口座が義援金の受付専用口座であることを証明する資料
・預り証
ふるさと納税
ワンストップ特例申請なし
受領書

事業承継税制の平成30年改正について

事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(円滑化法)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

平成30年度税制改正では、この事業承継税制について、これまでの措置( 以下「一般措置」 )に加え、施行日以後5年以内に特例承認計画書を提出し、10年以内に実際に承継を行う者を対象とし、抜本的に拡充された特例措置( 以下「特例措置」 )が創設されました。

(参考)特例措置と一般措置の比較

特例措置

一般措置

 

事前の計画策定等

5年以内の特例承認計画の提出

平成30年(2018年) 4月1日から

平成35年(2023年) 3月31日迄

 

不要

 

適用期限

 

10年以内の贈与・相続等

平成30年(2018年) 1月1日から

平成39年(2023年) 12月31日迄

 

なし

対象株数

全株式

総株式数の最大3分の2迄

納税猶予割合

100%

贈与:100% 相続:80%

承継パターン

複数の株主から

最大3人の後継者

複数の株主から

1人の後継者

雇用確保要件

弾力化

承継後5年間

平均8割の雇用維持が必要

事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除

あり

なし

 

相続時精算課税の適用

60歳以上の者から

20歳以上の者への贈与

60歳以上の者から

20歳以上の推定相続人・孫への贈与

 

・税制適用の入口要件を緩和し、事業承継に係る負担の最小化を図っています。

一般措置においては、納税猶予の対象になるのは、発行済議決権株式総数の3分の2までであり、相続税の納税猶予割合は80%とされているため、実際に猶予される額は全体の約53%(=2/3 ×80%)にとどまることになっていましたが、改正によって、対象株式数の上限を撤廃し、議決権株式の全てを猶予対象とし、また納税猶予割合も100%に拡大することで、承継時の税負担をゼロとすることが可能となりました。

承継パターンとして、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となり、中小企業経営の実状に合わせた多様な事業承継を支援する制度となっています。

相続時精算課税の適用として、一般措置では、相続時精算課税制度は原則として直系卑属への贈与のみが対象となっているため、事業承継税制の適用を受ける場合には、相続時精算課税制度の適用範囲を拡大することにより、猶予取消時に過大な税負担が生じないような枠組みが設けられました。

・税制適用後のリスク軽減

雇用確保要件として、一般措置においては、事業承継後5年間平均で、雇用の8割を維持することが求められ、仮に雇用8割を維持できなかった場合には、猶予された贈与税・相続税の全額を納付する必要があります。そのため、制度利用を躊躇する要因となっていた雇用要件を実質的に撤廃することにより、雇用維持要件を満たせなかった場合でも納税猶予を継続可能にする方向への見直しが図られています。(5年平均8割を満たせなかった場合には理由報告が必要。経営悪化が原因である場合等には、認定支援機関による指導助言が必要です。)

又、一般措置においては、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与・相続税が課税されるため、過大な税負担が生じうる可能性がありましたが、特例措置においては、売却額や廃業時の評価額を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免する措置がとられ、経営環境の変化による将来の不安の軽減を図っています。

 

上記の点が主だった改正点ですが、拙速に結論を出すのではなく、この制度を使うか否かは、会社の事業承継等についての未来予想図を描きながら、対象となる非上場株式等の評価額の算出を含む、先代経営者等に係る総合的な相続税・贈与税の試算を踏まえてご判断頂きたいと思います。

税理士法人 村上事務所 河村