従業員持株制度の奨励金と給与課税

福利厚生の一環として、従業員が自社株を定期的に購入・保有する「従業員持株制度」は、多くの企業で導入されています。
東京証券取引所に上場する企業のうち、およそ8割が持株会制度を導入しており、加入者も増加傾向にあります。
また、この制度を導入する企業の多くは、従業員持株会に加入する従業員に対して「奨励金」を支給しています。
ただし、この「奨励金」は給与として課税対象となるため注意が必要です。

 


従業員持株制度とは

従業員持株制度とは、企業が自社の株式を従業員に保有させる制度です。
福利厚生の一環として導入されることが多く、従業員が会社のオーナーシップを一部共有する形になります。
従業員があらかじめ申し込んだ金額を、給与や賞与から天引きの方法により拠出し、その拠出金をもとに自社株式を取得します。


【メリット】
■インセンティブの強化
従業員が自社株を持つことで、「会社の成長=自分の利益」となるため、業績向上に対するモチベーションが高まります。

■人材の定着
中長期的な資産形成が期待できるため、社員の離職率低下にもつながります。
従業員持株制度が福利厚生としても魅力があり、従業員満足度が向上します。

■経営の安定
長期的な安定株主としての従業員が存在することで、敵対的買収への防御や株価の下支えになる側面もあります。


【注意点】
株価が低迷すると従業員の士気低下のリスクがあります。
また、投資のため、一定のリスクも伴います。
企業側にとっては、制度継続運用のためのコストが必要になります。

 


従業員持株制度の奨励金とは

従業員持株制度における奨励金とは、従業員が自社株を購入する際に企業が一定額を上乗せして支給する金銭的支援のことで、制度への加入を促進するために、多くの企業で設けられています。
従業員が給料や賞与から天引きした一定額の拠出に対し、企業が数%~数十%を上乗せして株購入に充てるのが一般的です。

奨励金を設けることで、従業員持株制度への魅力が増し、加入率の向上が期待できます。
また、 長期的に見て従業員の資産形成にも貢献できます。


【例】
毎月の給与から1万円を拠出し、10%の比率で奨励金が支給された場合、拠出金1万円と奨励金1,000円を合わせた1万1,000円分の自社株式を取得できます。


従業員持株制度に係る奨励金は、会社から従業員に対して金銭で支給されるため、会計上、福利厚生費などの科目で費用計上している場合であっても、税務上は原則として「給与等」に該当します。
よって、毎月支給される奨励金であれば、毎月の給与に加算して源泉徴収されます。

輸出物品販売場制度

免税対象物品を一定の方法で販売する際に、消費税が免除される制度である輸出物品販売場制度(輸販場制度)は、令和8年11月1日より「リファンド方式」に移行します。
この移行に先立ち廃止された「別送の取扱い」と、引き続き利用可能な「直送制度」についても、併せて解説していきます。

 


輸出物品販売場制度とは

輸出物品販売場制度とは、輸出物品販売場(いわゆる免税店)を経営する事業者が、外国人旅行者等の非居住者に対し、免税対象物品を一定の方法で販売する場合には、消費税が免除される制度です。


■制度の目的
外国人旅行者等が日本国内で購入する物品のうち、日本国内で消費せずに国外に持ち出されることが明らかな物品については、消費税を課さないという考え方に基づいています。


■対象商品
【一般物品】
家電、衣類、装飾品、民芸品、雑貨など
購入金額:5,000円以上(税抜)
【消耗品】
食品、飲料、化粧品、医薬品など
購入金額:5,000円以上50万円以下(税抜)
※密封された状態で提供する必要あり


■免税販売の対象者(非居住者)
外国為替及び外国貿易法で規定されている非居住者であって一定の要件を満たす者(外国人旅行者など日本国内に住所又は居所を有しない方等)


■ 免税販売の流れ(簡略)
①購入者がパスポートを提示
②店舗が非居住者であることを確認
③購入者に対して必要事項を説明
④一定金額以上の対象商品を販売
⑤購入記録情報の提供
⑥購入記録情報の保存(7年)


■国税庁
輸出物品販売場制度のポイント
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/menzei/201805/pdf/0021009-040_01.pdf

 

 


リファンド方式とは

従来の方法は、購入時に消費税が免除され、販売店が非課税で物品を販売していましたが、「リファンド方式」では、購入者が一旦消費税を含めた金額を支払い、出国時に税関などを通じて消費税の払い戻しを受ける方式です。


従来の方法は、転売目的の購入や、日本国内での消費が行われるなど、不正利用が問題視されてきました。
特に化粧品・医薬品・日用品などの消耗品の大量購入が不正販売ルートに流れるケースがありました。
リファンド方式では、出国時に持ち出しが確認された物品に対してのみ消費税を還付するため、不正の抑止力になります。

 


「別送の取扱い」の廃止と「直送制度」継続の理由

「別送の取扱い」の廃止と「直送制度」継続の理由には、以下のようなものが考えられます。


■別送の取扱い
免税店で免税購入した物品を、免税店とは別の場所で配送業者に依頼し(EMS郵便物等)、出国前に国外に免税品を発送して、税関で輸出を証明する「発送伝票の控え等」の書類を提示し、輸出の確認を受ける制度です。

【廃止の主な理由】
購入者が実際には商品を海外に送らず、国内で消費・転売するケースが後を絶たなかった。
送付先や内容の確認が困難で、制度の趣旨(国外持ち出しによる消費税免除)に反する事例が多かった。
また、たとえ不正が発覚した場合でも、税の徴収が困難となっていた。


■直送制度
免税物品購入時に小売店から直接、購入者の海外住所へ発送する制度です。本人が持ち帰らない点は別送と同じですが、「発送責任が店舗にある」点が異なります。

【継続の主な理由】
店舗が物品の発送手続を担うため、確実に国外に発送される。
送り先の住所や追跡情報が明確に残り、不正リスクが低い。
移動や帰国の際に免税購入物品を持ち運ぶことがないため、旅行者の利便性が向上する。
また、「手ぶら観光」の推進によって、購入消費額拡大も期待できる。


なお、3月31日までに購入した免税品であれば、4月1日以後に発送を行った場合も原則、「別送の取扱い」を適用できます。

残業時のタクシー利用とインボイス保存

繁忙期や人員不足等により、遅くまで残業をして、終電に乗れずにタクシーで帰宅することもあるのではないでしょうか。
この場合のタクシー代は、インボイス制度における「公共交通機関特例」や「出張旅費等特例」の対象とはなりません。
しかし、通常必要であると認められる通勤手当に該当すれば、一定の事項を帳簿記載することで、インボイスの保存は不要となります。

 


インボイス制度における公共交通機関特例・出張旅費等特例とは

■公共交通機関特例
従業員などが業務で使用する3万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道等)に対する3万円未満の支払について、インボイスの交付義務が免除されるという特例です。


■出張旅費等特例
従業員等に支給する出張旅費(交通費、宿泊費、日当など)のうち、通常必要と認められる部分について、インボイス(領収書等)の保存なしに仕入税額控除が認められる特例です。

 


残業時のタクシー利用がそれぞれの特例の対象外となる理由

残業時のタクシー利用が上記特例の対象外となる理由には、以下のようなものが考えられます。


■タクシーは公共交通機関に含まれない
公共交通機関とは、 電車、バス、モノレール、フェリー、航空機など、不特定多数の人が定期的に利用できる交通機関とされています。
タクシーの場合、個別に利用されることが多く、運行が不特定多数に開かれている「定期運行」ではないため、公共交通機関とは異なる側面を持っています。


■通常勤務している場所からの帰宅は出張ではない
出張とは、業務のために通常勤務している場所から別の土地へ旅行することを指します。
よって、通常勤務している場所から自宅へ帰宅した場合は旅行といえず、一般的に「通勤」と整理されます。

 


通勤手当としての支給ならば、タクシー代のインボイス保存は不要

 

上記のように、残業時のタクシー利用は、公共交通機関特例・出張旅費等特例の対象外となりますが、「通勤手当」として支給するものであれば、一定の事項を帳簿記載することで、インボイスの保存は不要となります。

一方で、「交通費」として処理する場合、原則はインボイスを保存する必要があります。


■通勤手当と交通費の違い

  通勤手当 交通費
目的 自宅から職場までの通勤 業務遂行のための移動(出張や営業活動)
会計上の扱い 給与 事業主の経費
所得税 一定の範囲は非課税
支給方法 現金・現物支給(定期券など) 立て替え精算

 

地方税のダイレクト納付に二段階認証導入

国税・地方税の納付に、口座振替で便利なダイレクト納付を利用する人も多いのではないでしょうか。
2025年3月24日の、eLTAX対応ソフトウェアのPCdeskのシステム更新に伴い、地方税のダイレクト納付の利用手続等に一部変更が行われました。

 


国税・地方税の納付に便利なダイレクト納付とは

ダイレクト納付とは、事前に税務署や地方自治体に口座振替の登録を行うことで、インターネットを通じて納税者が指定した口座から直接税金を引き落とす仕組みで、国税と地方税のどちらにも対応しています。


【国税】
所得税
法人税
消費税
源泉所得税
相続税 など
 

【地方税】
法人道府県民税・法人事業税・特別法人事業税
法人市町村民税
住民税(特別徴収)
事業所税


■ダイレクト納付のメリットとデメリット


【メリット】
・納付手続きが簡単
  銀行やコンビニに行く必要がなく、オンラインで完結
  申告データをもとに、そのまま納付できる
 

・納付漏れを防げる
  期日を指定して振替できるため、納付漏れのリスクを軽減
 

・手数料がかからない
  クレジットカード納付とは異なり、決済手数料が不要
 

・複数の税目を一括管理できる
  まとめて手続きを行えるため、税目の多い事業者や企業に便利

・金融機関の窓口営業時間に縛られない
  オンラインなので24時間いつでも手続き可能
 


【デメリット・注意点】
・事前に金融機関口座の登録が必要
・引き落とし日に口座残高が不足していると未納扱いになる
・e-Tax/eLTAXの利用環境が必要


事前にダイレクト納税の利用環境整備を行っておけば、納税手続きの手間を減らし、利便性を向上させる制度です。

 


2025年3月24日のシステム更新による変更点

2025年3月24日の地方税電子申告システム更新による変更点は以下となります。


■二段階認証の導入
セキュリティ強化のため、下記についてワンタイムパスワードを用いた二段階認証が導入されました。
・ダイレクト納付手続き
・利用者IDに紐づくメールアドレスの変更・追加時


■期日指定ダイレクト納付のキャンセル機能
ダイレクト納付で納付日を指定した後、他の方法で納付が確認された場合、指定日の前日までであれば、PCdesk上で納付予約をキャンセルできるようになりました。


これらの変更により、納税手続きの安全性と柔軟性が向上します。
詳細な操作方法については、eLTAXの公式ウェブサイトで公開されたマニュアルを参照してください。


■eLTAX マニュアルコーナー
https://www.eltax.lta.go.jp/support/manual/

 


ダイレクト納付の二段階認証対応に関する注意点

二段階認証の導入にあたっては、下記のような実務上の懸念点も挙げられており、注意が必要です。


二段階認証では、登録済みのメールアドレスにワンタイムパスワードが送信され、送信されたワンタイムパスワードを入力して手続き完了となります。
顧問の会計事務所等のメールアドレスのみが登録されているなど、ダイレクト納付の操作を行う納税者本人(企業の担当者等)のメールアドレスが登録されていない場合、ワンタイムパスワードが納税者本人に届かないため納付手続きを進めることができません。
必要に応じてメールアドレスの追加や変更の対応を行い、トラブルを防ぐ対策を講じておきましょう。

 


システム更新後の流れ

システム更新後の地方税のダイレクト納付の流れは下記のようになります、


(1)納付方法選択画面でダイレクト方式を選択
(2)「今すぐ納付を行う」又は「納付日を指定して納付を行う」を選択
(3)ワンタイムパスワードの通知先メールアドレスを選択
(4)選択したメールアドレス宛てに送信されるワンタイムパスワードを確認
(5)PCdeskに表示されるワンタイムパスワード入力画面に入力
(6)納付手続き完了


二段階認証の導入により、不正アクセス・なりすましによる不正納付リスクが低減され、より安全に納税が行えます。
早めにメールアドレスを確認・更新することをおすすめします。

フリーランス法と取引条件明示義務

2024年11月1日に施行されたフリーランス法により、発注事業者は、業務委託時に、フリーランスとの取引内容を明確にし、書面または電子的記録(メール・PDF等)で契約内容を交付する義務があります。
口約束や不明確な契約条件によるトラブルを防ぐことが目的です。

 


フリーランス法とは

フリーランス法は、フリーランスとして働く個人を保護し、適正な取引環境を整備するために制定された法律です。
フリーランスと発注業事業者との取引において、以下のような点を改善・保護することを目的としています。


適正な取引の確保

・曖昧な契約や不当な取引条件の是正
・書面または電磁的記録による契約内容の明確化


報酬の適正化

・報酬の支払遅延防止(原則60日以内の支払い義務)
・報酬減額・不当な値引きの禁止


ハラスメント防止

・フリーランスに対するパワハラ・セクハラの防止義務
・苦情処理体制の整備


 

【発注事業者とフリーランスの定義】
■発注事業者
 業務委託事業者・・・・従業員なしの個人事業者・一人社長
 特定業務委託事業者・・従業員又は役員がいる個人事業者・法人


■フリーランス

 特定受託事業者・・・・従業員なしの個人事業者・一人社長

 

 


フリーランス法における義務と禁止行為

フリーランス法では、フリーランスと発注事業者の取引を公正にし、フリーランスが働きやすい環境を整備するために、以下のような義務と禁止行為が定められています。


【義務】

■取引条件の明示義務
発注事業者は、フリーランスとの取引内容を明確にし、書面または電子的記録(メール・PDF等)で契約内容を交付しなければなりません。

■報酬の支払い義務(60日以内の支払い)
フリーランスに対する報酬は、業務の完了日から原則60日以内に支払わなければなりません。

■ハラスメント防止義務
発注事業者は、フリーランスに対するハラスメントを防止する措置を講じる必要があり、相談窓口の設置などの具体策が求められます。


【禁止行為】

■報酬の減額
不当に報酬を減額することは禁止されています。

■不当な取引の禁止
フリーランスの立場を不当に弱めるような行為は禁止されています。
例:一方的な契約変更・業務追加の強要、契約解除時の一方的な不利益など


【その他(違反時の措置)】
発注事業者が上記の義務・禁止行為に違反した場合、公正取引委員会・厚生労働省などが調査を行い、指導・勧告・公表・命令を行う場合があります。


 


取引条件の明示

フリーランス法では、発注事業者がフリーランスとの取引内容(給付の内容・報酬額・支払期日など)を明確にし、書面または電子記録で契約内容を交付することを義務付けています。
口約束や不明確な契約条件によるトラブルを防ぐことが目的です。


契約内容の交付は、以下の方法で行うことが認められています。


・書面
・電子メール
・SNSのメッセージ
・チャットツール(LINEやSlackなど)


口頭のみでの契約はNGで、必ず記録に残る形式で交付しなければなりません。
なお、電磁的方法で明示した場合であっても、フリーランスから書面の交付を求められたときは、一定の場合を除き、書面を交付しなければなりません。


また、取引条件の明示義務は、フリーランス同士の取引も対象であるため、発注事業者がフリーランスである場合にも義務が課されます。


■中小企業庁
ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law_05.pdf