教育訓練休暇給付金の活用

2025年10月1日から「教育訓練休暇給付金」の支給制度がスタートしました。
この制度を活用するためには、事業主が自社の就業規則や労働協約等に制度内容を明記しておくことが必須要件となります。
導入にあたっては、給付対象となる条件を正しく理解し、自社の人事制度や運用体制に合わせた規程整備が重要です。

 


教育訓練休暇給付金とは

教育訓練休暇給付金は、雇用保険の一般被保険者が、会社の承認を得て自発的に行う長期の教育訓練に対し、国(雇用保険)から支給される給付金です。
この制度の目的は、従業員が自らスキルアップやキャリア形成を図る機会を確保し、結果的に企業全体の生産性向上や人材定着につなげることにあります。
 

主な要件は以下の通りです。
 

・対象者は雇用保険に加入している一般被保険者(正社員など)
・休暇は事業主の承認を得た上で、従業員が自主的に取得すること
・30日以上連続の無給休暇であること
・給付金は「失業等給付」に分類され、所得税は非課税

 

つまり、会社主導の研修ではなく、従業員が主体的に参加する教育訓練を支援する仕組みです。
従業員にとっては経済的な負担を軽減しつつ学び直しの機会を得られ、企業側にとっても人材育成施策の一環として活用価値が高い制度といえます。

 

■厚生労働省
教育訓練休暇給付金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/kyukakyufukin.html

 


就業規則等への導入と記載ポイント

給付金の支給を受けるためには、制度内容を就業規則または労働協約等に明記しておく必要があります。
記載の際は、以下の4項目を必ず盛り込むことが求められます。


①教育訓練休暇は従業員の自主的な申し出によるものであること
②雇用保険の加入期間が5年以上の一般被保険者を対象とすること
③30日以上連続で取得可能な休暇であること
④無給(給与を支給しない)であること

(出典:厚生労働省「教育訓練休暇給付金のご案内」)


なお、就業規則の設計にあたっては、自社の実情に応じた柔軟な設定も可能です。
たとえば、以下のような定めを設ける企業もあります。

・入社から3年未満の社員は対象外とする
・会社が認めた場合に限り、有給扱いとする


また、制度名称については「教育訓練休暇」に限らず、「サバティカル休暇」など、目的(教育・自己啓発のための長期休暇)が明確であれば自由につけることも可能です。

 


実務上の留意点

■制度導入の告知・説明
就業規則に定めるだけでなく、社内への周知が必要です。
制度目的や取得条件を明確にし、社員が正しく理解できる形で案内を行うことが望まれます。


■運用ルールの整備
申請手続きの方法、承認フロー、教育訓練の内容確認方法などを事前に定め、社内運用の一貫性を確保します。


■制度の効果測定
取得実績や復職後のキャリア形成への影響を定期的に確認し、人材育成戦略と連動させることが推奨されます


なお、制度内容の確認や就業規則の記載方法などに不明点がある場合は、厚生労働省が全国に設置している「働き方改革推進支援センター」に相談することができます。

 

適格合併の要件

支配関係のない法人同士が合併を行う場合、その合併が「適格合併」にあたるかどうかを判断するために、いくつかの要件があります。
その1つが 事業関連性要件 です。
これは、合併前における合併法人の事業と被合併法人の事業が、どちらも実態を伴って存在しており、かつ相互に関連していることを求めるものです。
ここでいう「事業の実態」とは、見せかけではなく実際に継続して行われてきた事業を指し、合併直前まで過去から継続して行われていれば、実態ありと認められます。

 


適格合併とは

「適格合併」とは、組織再編税制において一定の要件を満たすことで、税務上の優遇措置が認められる合併のことです。
法人間の支配関係の有無によって判定基準が異なります。


支配関係がない法人同士の合併の場合に、
・金銭等不交付要件(合併の対価として原則金銭を交付しないこと)
・共同事業要件(合併後も両社の事業を継続し、共同で事業を営むこと)

の2つを満たす必要があります。


共同事業要件の1つである「事業関連性要件」では、合併法人側は主要でない事業、被合併法人側は主要な事業を対象とし、それらが相互に関連していることが求められます。
例えば、
・両社が同じ小売業を行っている場合(同種の事業)
・製薬会社において、一方が製造、もう一方が販売を担う場合(製品が同一で事業の役割が補完関係にあるもの)

といったケースが該当します。

 


適格合併のメリット

適格合併に該当すると、譲渡損益が繰り延べられる、繰越欠損金を引き継ぐことができる、という税務上のメリットがあります。


■譲渡損益が繰り延べられる
資産や負債を時価ではなく簿価で引き継ぐことが認められ、これにより法人税が課税されません。

■繰越欠損金を引き継ぐことができる
繰越欠損金を引き継ぐことで、課税対象となる所得を減らすことができます。


合併による税負担を抑え、資金繰りの不安が軽減されるので、組織再編がスムーズに進めやすくなります。

また、適格合併の枠組みを使うことで、会計・税務処理がシンプルになり、実務面においてのコスト削減も期待できます。

 


売上先が被合併法人のみであった場合の事業関連性

合併法人の売上先が被合併法人のみであった場合、「合併のために一時的に取引を作ったのではないか」と疑われ、事業の実態がないと判断されてしまう懸念があります。
しかし実際には、合併の有無に関わらず過去から継続的に取引を行ってきたのであれば、売上先が被合併法人だけであることを理由に事業実態を否定されるわけではない、とされています。


■国税庁
質疑応答事例「合併法人の売上先が被合併法人のみであった場合の事業関連性について」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/56.htm

旅行券を支給した際の給与課税

会社によっては、長く働いている役員や従業員に感謝の気持ちを込めて、旅行券や記念品を贈ることがあります。
これらは「お金を渡す」のとは異なるため、一定の条件を満たせば「給料」とはみなされず、課税されないことになっています。

 

■国税庁
No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2591_qa.htm

 


給料扱いとは

所得税法では、会社から受け取る給料や賞与などの「金銭」だけでなく、「経済的に得をしたこと」も原則は給料として課税されます。
例えば、会社から無償で物品をもらったり、サービスを受けたりした場合も、経済的利益を得たこととなり、課税対象になるという考え方です。

 

一方で、以下の 2つの条件を満たす場合は課税されません。

 

①もらえる旅行や観劇、記念品の価値が、その人の勤続年数などに照らし、「社会的に見て妥当な範囲」であること
②おおむね10年以上勤続した人が対象で、2回目以降の表彰はおおむね 5年以上空けて行われること

 


旅行券を支給する場合の注意点

単なる旅行券だと「有効期限がない」「現金と同じように扱える(=換金性がある)」ため、実質的に金銭支給と同様になり、基本的には給料扱いになり課税されます。

 

しかし、上記の①②に加え、以下の追加条件を満たせば、旅行券でも課税されない特例があります。

 

A.旅行は旅行券をもらってから1年以内に実際に行うこと

B.旅行の内容や金額が常識的な範囲であること

C.旅行後に、日程・行き先・旅行会社への支払額などを会社に報告すること

D.1年以内に使い切れなかった場合は、未使用分の旅行券を会社に返すこと

 

 

また、旅行券によって課税・非課税が異なるものもあるので注意が必要です。

 

■旅行専用カタログギフトや旅行専用券の場合
宿泊や観光プランだけが選べるカタログギフトや旅行専用の金券の場合、条件①②とA~Dを全部満たせば課税されません

■グルメや日用品など旅行以外のものも選べるカタログギフトの場合
そのカタログは「旅行専用」とは言えないので、現金をもらったのと同じ扱いになり課税対象となります。
例えカタログから旅行を選んだとしても、選択肢の豊富な「旅行以外も選べるカタログ」であれば課税対象になってしまいます。

100億宣言が可能な売上高要件

中小企業庁の100億企業成長ポータルでは、「100億宣言」の宣言を行った企業等が公表されています。
6月9日時点で1,500件を超える申請があり、このうち事務局の確認が完了した各社の宣言が順次掲載されています。今後も随時公表される予定です。


100億企業成長ポータルでは、「100億宣言」を行った企業の宣言内容を紹介するほか、「中小企業成長加速化補助金」「経営者ネットワーク」など、100億企業への飛躍的成長をサポートする施策情報や事例が掲載されています。


・100億企業成長ポータル
https://growth-100-oku.smrj.go.jp/


 


100億宣言とは

「100億宣言」とは、中小企業庁と独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が共同で推進する、「売上高100億円」を目指す中小企業に向けた成長支援プロジェクトです。
経営者にとって「売上高100億円」という野心的な目標を掲げ、実現に向けた取組を行っていくことを宣言するものです。

令和7年度改正で創設された中小企業経営強化税制の経営規模拡大設備等(E類型)の適用を受ける場合や、中小企業成長加速化補助金の申請を行う場合に、宣言を行うことが必要になります。


■宣言に盛り込む内容

①企業概要
企業名や業種、本社所在地、事業内容、従業員数など企業の基本情報を記載


②企業理念・経営者の意気込み(100億宣言に向けた経営者メッセージ)
企業理念・ミッションや、100億円への成長を通じて実現したい内容を記載


③売上高100億円実現の目標と課題
100億円を実現する達成年度や成長率を示す実現目標と、実現に向けた課題を記載


④売上高100億円に向けた具体的措置(取組)
具体的な成長手段や事業の成長性・先進性と、実施するための社内外の協力体制を記載


■宣言できる企業

売上高10億円~100億円未満の中小企業
※中小企業とは、原則として、中小企業基本法に基づく中小企業者又は法人税法に基づく中小法人
 

・「100億宣言」とは
https://growth-100-oku.smrj.go.jp/documents/about.pdf


 


100億宣言のメリット

宣言を行うことで、以下のような支援を受けられます。


・成長加速化補助金の活用
・経営者ネットワークへの参加
・宣言の公式ロゴマーク活用による自社PR


宣言に盛り込まれた実現のための課題や具体的措置などの経営戦略が明確になることで、組織や経営の成長を促すと共に、企業ブランディングの強化にもなり、人材確保や信頼構築にも繋がります。


 


既に売上高100億円を達成している中小企業は対象外となるのか?

2期前や3期前の売上高が10億円未満又は100億円以上であっても、直近の事業年度(前期)の売上高が10億円以上100億円未満であれば原則として申請可能です。
※直近3期分の決算書類を事務局に提出する必要があります。


■例
令和5年3月期:売上120億円
令和6年3月期:売上110億円
令和7年3月期:売上90億円 → 前期が10億円以上100億円未満なので申請OK


なお、直近3期分のうち、前期のみの売上高が10億円未満又は100億円以上の場合等は、申請前に電話にて相談してほしいとのことです。
専用ダイヤル:0570-00-0835


・100億宣⾔ よくあるご質問
https://growth-100-oku.smrj.go.jp/documents/faq_growth100oku.pdf

従業員持株制度の奨励金と給与課税

福利厚生の一環として、従業員が自社株を定期的に購入・保有する「従業員持株制度」は、多くの企業で導入されています。
東京証券取引所に上場する企業のうち、およそ8割が持株会制度を導入しており、加入者も増加傾向にあります。
また、この制度を導入する企業の多くは、従業員持株会に加入する従業員に対して「奨励金」を支給しています。
ただし、この「奨励金」は給与として課税対象となるため注意が必要です。

 


従業員持株制度とは

従業員持株制度とは、企業が自社の株式を従業員に保有させる制度です。
福利厚生の一環として導入されることが多く、従業員が会社のオーナーシップを一部共有する形になります。
従業員があらかじめ申し込んだ金額を、給与や賞与から天引きの方法により拠出し、その拠出金をもとに自社株式を取得します。


【メリット】
■インセンティブの強化
従業員が自社株を持つことで、「会社の成長=自分の利益」となるため、業績向上に対するモチベーションが高まります。

■人材の定着
中長期的な資産形成が期待できるため、社員の離職率低下にもつながります。
従業員持株制度が福利厚生としても魅力があり、従業員満足度が向上します。

■経営の安定
長期的な安定株主としての従業員が存在することで、敵対的買収への防御や株価の下支えになる側面もあります。


【注意点】
株価が低迷すると従業員の士気低下のリスクがあります。
また、投資のため、一定のリスクも伴います。
企業側にとっては、制度継続運用のためのコストが必要になります。

 


従業員持株制度の奨励金とは

従業員持株制度における奨励金とは、従業員が自社株を購入する際に企業が一定額を上乗せして支給する金銭的支援のことで、制度への加入を促進するために、多くの企業で設けられています。
従業員が給料や賞与から天引きした一定額の拠出に対し、企業が数%~数十%を上乗せして株購入に充てるのが一般的です。

奨励金を設けることで、従業員持株制度への魅力が増し、加入率の向上が期待できます。
また、 長期的に見て従業員の資産形成にも貢献できます。


【例】
毎月の給与から1万円を拠出し、10%の比率で奨励金が支給された場合、拠出金1万円と奨励金1,000円を合わせた1万1,000円分の自社株式を取得できます。


従業員持株制度に係る奨励金は、会社から従業員に対して金銭で支給されるため、会計上、福利厚生費などの科目で費用計上している場合であっても、税務上は原則として「給与等」に該当します。
よって、毎月支給される奨励金であれば、毎月の給与に加算して源泉徴収されます。