人生100年時代と、認知症と、相続対策と、信託と

 

こんにちは、税理士の岡本です。
今年の猛暑はどこへやら、めっきりと涼しくなり秋の装いになりつつありますね。


皆さんはメディア等で、「人生100年時代」というような表現を目にされたことはありますでしょうか。


日本人の平均寿命は2017年で男性が81.09歳、女性が87.26歳となり、過去最高を迎えたそうです。
政府としても人生100年時代構想を掲げており、高齢者雇用の促進や幼児教育の無償化などの経済政策を打って出ています。
ただ、人生100年時代が到来すると、今までのような定年退職まで勤めて、そのあとは退職金や年金などで余生を楽しむなどといった人生モデルがガラリと変わり、長く現役として働く、再就職や副業を始める、等といったことが当たり前となっていくでしょう。



それ以外にも不安があります。
それが「認知症」です。


2015年1月の発表によると、認知症若しくはその予備軍の割合は、65歳以上の方の4人に1人と言われております。
つまり、私の父方の祖父母2人、母方の祖父母2人の計4人のうち、だれか1人は認知症になってしまうという計算です。
とても身近で、ある日突然、家族に降りかかってきます。


しかも上記の通り、日本は「人生100年時代」を迎えようとしています。
これからもっともっと日本人は長生きしますし、65歳以上の方の比率も増えていき、同様に認知症の方も増えていく可能性を十分に秘めています。
(もちろん、医療の発達などで減っていくかもしれませんが)


大切なご家族が認知症になった時に、たくさんの困ったことが起こります。
肉体的にも精神的にもご家族は大変な思いをされるケースが多いでしょう。
その中でも、意外と認知症になってから困る方が多いのが、認知症になった方の『財産凍結』です。


何も本当に凍るわけではないですが、認知症になった方は今のところ一切の契約行為等が出来ないのが実情です。
それは銀行からの預金の引き出しや自宅などの不動産の売買、老人ホームの契約、賃貸マンションの大規模修繕など多岐にわたります。
つまり、「老人ホームの入居のためにお金が必要なのに預金が引き出せない!」「もう老人ホームに入所したから実家を売却したいのに契約が出来ない!」なんてことが起こります。


実際には、銀行のキャッシュカードで少額を何回かに分けて引き出すであったり、調子が良いときに契約に行くなどで何とかしているといった方もいるでしょうが、どうしても不安はあります。
そして、その不安が今後は、例えば65歳で認知症になった場合、100歳まで生きれば35年間続くことになります。
その間、認知症になった方の財産が凍結されたままでやっていけるでしょうか?
老人ホームの費用や生活費は誰が工面するのでしょうか?


そんな心配はない!うちには財産がたくさんある!といった方も関係のない話ではありません。むしろ財産があるご家庭の方がダメージを受けるケースがあります。



それが「相続対策」です。
相続対策の一環として、財産をお持ちのおじいちゃんおばあちゃんから子供さんやお孫さんに現金を贈与する、借入を起こしてマンションを建てるなどをされている方が多いのではないでしょうか。

これが先に申した通り、認知症になると契約行為(今回は贈与契約・建築請負契約・ローン契約)が出来ず、これらの「相続対策」が出来なくなってしまい、多額の相続税が来るのを待つばかりといった状況に陥ってしまいます。恐ろしいです。




これらの状況を受けて、今注目されているのが「信託」です。


ちまたでは「家族信託」や「民事信託」と呼ばれ、信託銀行さんが取り組んでいらっしゃる「商事信託」とは異なり、家族間のみで行うことのできる信託契約を言います。

これをもってすれば、認知症になってしまう前に「私の預金と自宅は長男に任せた!私や家族の生活費や老人ホームの費用に使ってくれ!」と、信頼できる家族に託すことで認知症になった後もその家族が預かった財産についての契約行為を認知症になった方に代わってに行うことが可能になります。
つまり、「財産凍結」を未然に防ぐことが出来るのです。


これ以外にも、家族信託にはたくさんの使い道があり、例えば昔ながらの家督相続のように血筋以外に財産が流れるのを防ぎたいであったりとかも可能だったりします。
しかし、この家族信託は誰でも出来るのですが、契約作成や税務面が非常に難しく、信託法や実務を理解せずに導入すると、せっかく有効活用できそうだったのに、むしろ要らぬ税負担が増えてしまった!すごく使い勝手が悪い契約内容になっていた!などもあり得ますので注意が必要です。


これから続く、長い長い人生の旅路が有意義なものになるかどうかは、他の誰でもなく、自分次第です。
出来れば認知症にならない方が良いですが、こればっかりはわかりません。
人生100年時代に向けて、相続対策と認知症対策はお早い目に取り掛かられることをお勧めいたします。



税理士・信託活用アドバイザー
岡本孝司