インボイス 少額特例について

インボイス制度が始まると、2023年10月1日以後に行った課税仕入れは、原則として、インボイスの保存等がなければ仕入れや経費の取引について仕入税額控除が適用できません。
しかし、事務負担の軽減のため、一定規模以下の事業者については少額特例が認められます。

 


少額特例とは

少額特例とは、以下のいずれかの要件を満たしている事業者であれば、税込1万円未満の課税仕入れについて、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの6年間、インボイスがなくても、帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができる特例です。
 

【少額特例の対象事業者となる要件】

基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者
 ※基準期間:前々事業年度

特定期間における課税売上高が5千万以下の事業者
 ※特定期間:前事業年度開始日から6か月間


なお、新設法人における基準期間のない課税期間については、売上高にかかわらず1万円未満の課税仕入れについて少額特例を適用できます。


■少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/02.htm

 

 


税込1万円未満の判定単位

少額特例の判定単位は、一取引ごとの金額での判定となるため、一商品ごとや月まとめの複数取引をまとめた請求書等の単位では判定されません。


【例】
・10月9日に5000円の商品を購入、10月20日に7000円の商品を購入した場合
それぞれ10000円未満の取引となるため少額特例の対象


・5000円の商品と7000円の商品を、合計12000円同時に購入した場合
1度の取引が10000円以上となるため少額特例の対象外


・月額10万円の清掃業務(稼働日数:12日)
→稼働日で按分すると10000円未満となるが、月まとめの取引が10000円以上となるため少額特例の対象外


判定単位の詳細については下記URLでご確認ください。
■インボイスQ&A
問109 一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置における1万円未満の判定単位
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf#page=158

 


仕入れ先がインボイス発行事業者でなくても少額特例の対象となります

少額特例の適用について、課税仕入れ先がインボイス発行事業者ではなく、免税事業者や個人の場合でも、少額特例の対象となります。
1万円未満の課税仕入れであれば、相手方がインボイス発行事業者かどうかの確認や、受領した領収書等がインボイスかどうかの仕分け作業は不要となります。


しかし、少額特例は、あくまでも仕入れを行う買い手側のインボイス保存要件についての特例となりますので、売り手側のインボイス交付義務に変わりはなく、買い手側から求められた場合、金額にかかわらずインボイスを交付しなければなりません。

社内副業の源泉徴収について

働き方改革の一環で副業解禁が進む中、正式な所属先に籍を置いた状態で、所属部署以外の業務に携わる「社内副業」を導入している企業もあるのではないでしょうか。
社内副業を行った従業員に対して報酬を支払う場合、それが「事業所得」となるか、源泉徴収の必要がある「給与所得」となるかは、実態に基づいた判断が必要となってきます。

 


給与所得か事業所得なのか、判断基準となる判例

社内副業を導入する際に、本業(雇用契約)の所定労働時間とは別に、所属部署以外で業務を行えるよう、従業員と企業側で、社内副業についての業務委託契約を締結することがあります。
しかし、業務委託というその契約の名称から、社内副業は源泉徴収の必要のない「事業所得」であると即座に決定することはできません。
判断によく使われる判例は、昭和56年4月24日の最高裁での判決です。

 

 

事業所得とは「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」であるのに対し、給与所得は「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」とされる。

 

 


給与所得か事業所得なのか、判断基準となる判例

上記の判決内容をわかり易くするために、営業部で働く従業員Aが業務委託契約を締結し、設計部で社内副業を行うケースで考えてみます。

 

■給与所得となる場合
副業先である設計部での業務について、企業側から従業員Aに対し、指揮命令や用具供与があるなど、設計部の他従業員と同じ状態で業務を行っている場合は給与所得となり、源泉徴収が必要です。

 

■事業所得となる場合
企業側からは、従業員Aに対しての指揮命令や用具供与などは行われず、従業員Aが成果物を納品した場合等は事業所得となります。
なお、従業員Aが、給与等を営業部のみから受給しており、設計部での社内副業の事業所得が20万円を超える場合、確定申告が必要となります。

 


社内副業のメリット・デメリット

通常は自身の所属する部署での業務が基本ですが、社内副業では他の部署での仕事に携わることができるので、経験の蓄積、スキルや知識の幅を広げることが可能となります。
企業側にとっても、人手不足や離職率低下の解消に役立つ面もあるでしょう。

 

一方、社内副業の課題として、従業員は本来の業務に加えて別の業務に取り組むため、スケジュール調整やマネジメントの複雑化などの負担増加が考えられます。

 

一部の大手企業で広がりつつある社内副業制度ですが、制度設計を工夫すれば企業規模を問わずに効果的に行える場合もあります。
その際は、源泉徴収の有無、業務量の調整、指揮命令系統の明確化などが留意点として挙げられます。

インボイス登録申請の延長

インボイス制度が始まる令和5年10月1日から登録を受けるには、原則として同年3月31日までの申請が必要でした。
しかし令和5年度改正により、令和5年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出すれば登録を受けることが可能です。
これまでは、4月以降に申請する場合、インボイス制度が開始する令和5年 10 月1日に登録を受けたものとみなす宥恕規定の適用を受けるためには、申請書に「期限までの申請が困難な事情」の記載が必要でしたが、この「困難な事情」の記載は不要となりました。

 


インボイス制度が開始する10月1日までに登録の通知が来なかったら?


制度開始日である令和5年10月1日までに登録通知が届かなかった場合であっても、同日から登録を受けたものとみなされます。


通知を受けるまでは以下のような対応が考えられます。
・暫定的な請求書を交付し、通知後にインボイスとしての不足事項を書面で交付し補完する
・事前にインボイスの交付が遅れる旨を取引先に伝え、通知後にインボイスを交付する
・取引先に対して通知を受けるまでは暫定的な請求書を交付し、通知後に改めてインボイスを交付しなおす


登録申請書の処理期間は、e-Tax提出なら約3週間、書面提出なら約2か月かかるため(4月10日現在)、登録を決めた場合は早めに申請するのがおすすめです。


■適格請求書発行事業者の登録件数及び登録申請書の処理期間について
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/kensu_kikan.pdf

 


期限の特例

ちなみに、最終日となる令和5年9月30日は土曜日です。
申告書等の提出等に係る期限が土日等に当たるときは、その翌日を期限とみなす「期限の特例」が設けられています。
しかし、インボイス登録に係る経過措置に関しては上記の「期限の特例」の対象にはなりません。
「期限の特例」の対象となるには、条文上に期限の定めがあることが前提です。
インボイスの登録申請に関する条文には「(制度開始日にインボイス発行事業者の)登録を受けようとする事業者は、5年施行日の 6月前の日=3月31日まで に、登録申請書を 提出しなければならない 」とありますので、3月31日が土日であれば「期限の特例」の対象でしたが、経過措置にはこのような期限の定めがないため、最終日は翌月曜日にならないので注意が必要です。

 


インボイス制度開始後の10月以降に登録はできるのか?

免税事業者が令和5年10月1日後から令和11年9月30日までの間に登録を受ける場合には、適格請求書発行事業者の登録申請書に、提出日から 15 日以後の日を「登録希望日」として記載すれば、その登録希望日から登録を受けることができます。

配偶者居住権の賃料収入と経費算入

令和2年4月1日に始まった配偶者住居権に基づき、自宅の所有者の許可を得れば、配偶者は使用収益が可能となり、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。
その場合の賃料は、配偶者の不動産所得と考えられ、配偶者が負担すべき自宅に係る固定資産税等は必要経費に算入できます。

 


配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった際に、残された配偶者が亡くなった人が所有していた建物に、賃料の負担がなく、引き続き住み続けることができる権利です。
残された配偶者の居住権を保護するため、令和2年4月1日以降に亡くなられた方の相続から新たに認められました。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても、一定の要件の下、居住権を取得することで、亡くなった人が所有していた建物に引き続き住めるようにするものです。

 

残された配偶者は、亡くなった人の遺言や、相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって、配偶者居住権を取得することができます。
配偶者居住権を設定することで、自宅の所有権を子に相続させても、配偶者は自宅に居住し続けることが権利上可能なうえ、自宅の所有権を取得しない代わりに、配偶者は自宅以外の、預貯金等の財産をより多く相続できることになり、今後の生活費を確保しやすくなる等のメリットがあります。
また、所有権を持つ子の許可を得れば、第三者に賃貸し、賃料収入を得ることもできます。

 

 


固定資産税と減価償却費

配偶者はその建物の通常の必要費を負担するものとされており、固定資産税は配偶者が負担すべき費用に当たるようです。
そのため、配偶者居住権に基づき、配偶者が自宅を賃貸する場合、配偶者が負担すべき固定資産税は自宅の賃貸に係る必要経費として、配偶者の賃料収入から差し引くことができます。
一方で、不動産所得計算上、減価償却費は必要経費に算入できません。
減価償却費は建物の所有者である子の必要経費に算入されます。

 

しかし、建物の所有者である子が、同居し、日常の生活の資を共にしている生計一の場合、本来は子の必要経費に算入されるべき自宅の減価償却費を配偶者の必要経費に算入できます。

圧縮記帳の適用と償却資産税

国や地方公共団体から交付された補助金を使って固定資産を取得した場合、圧縮記帳の制度が使えます。
さらに、固定資産の圧縮記帳後の金額が30万円未満であれば、全額損金算入することも可能です。

 


圧縮記帳とは

圧縮記帳は、補助金を受取った事業年度の大幅な課税を避けるための方法です。

 

例:国からの補助金を使って機械を購入した場合

補助金収入には税金がかかるため、せっかく補助金を受給しても、初年度の税金が大きくなり、補助金の効果が薄れてしまいます。
そこで、補助金と同額の損金(固定資産圧縮損)を計上することで、結果として相殺が可能となります。
これにより、補助金を受給した事業年度に、補助金の効果を十分に受けられることになります。

 

ただし、圧縮記帳を適用すると、固定資産の取得価額も減額されるため、2年目以降は減価償却費が少ない分、計上できる減価償却費も小さくなり、課税所得は大きくなりますので、トータルで考えると、税負担を軽減しているわけではなく税を繰り延べていることになります。

 


償却資産税の申告は圧縮記帳前の金額で行う

地方税法上、償却資産は、土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産等とされ、少額の償却資産は除かれています。
少額の償却資産の範囲に、圧縮記帳制度を適用した資産は含まれないため、償却資産税では、圧縮記帳前の金額、つまり、取得価額をベースに申告する必要があります。

 

例:50万円の機械を購入し、圧縮記帳後の金額が20万円となった場合
中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例を適用して全額損金算入することができます。
一方、償却資産税は、圧縮記帳は認められませんので、圧縮記帳前の50万円をベースに申告します。

 

なお、地方税法における少額の償却資産は、「少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度」と「一括償却資産の損金算入制度」の適用がある資産等に限られます。
そのため、圧縮記帳を行わず「中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例」のみで全額損金算入した固定資産についても、少額の償却資産には該当しません。