相続放棄の連鎖、生命保険と相続税

11月下旬から急に寒くなりましたね。周りでも体調を崩す人が増えているような気がします。

さて先日、私どものお客様から次のようなご相談を受けました。前提として、

・ご本人は自営業だが多額の債務があり、全額を償還するのは事実上不可能。

・個人資産は無いが、推定相続人たる「子」が受取人となっている生命保険契約がある。

・私の妻は既に亡くなっており、推定相続人は「子」一人だけです。

・・という状況です

 

「自分が死んだら、子が債務を引き受けることとなるが、子が相続放棄をしたらどうなるのか?生命保険金は債権者に取られるのか?」

・・という内容でした。

ご存知の方もおられると思いますが、

・生命保険金は、「相続税法」上は一定額を超える金額について相続税の課税対象となる。

・しかし「民法」上の相続財産には該当しないため、生命保険金の受取人が相続放棄をしたとしても、保険金を受領することができる。そして故人の債務を負担する必要はない。

よって、上記の相談に対してはまず、

「子が相続放棄しても生命保険金は受け取れるし、そのお金を(本人の債権者に)取られる事もありませんよ。」

「でも、債務を控除できず、生命保険金の非課税規定(@500万)も使えないので、生命保険金が相続税の基礎控除を超えるならば、相続税の負担は生じますね。」

・・・が、とりあえずの回答となります。

ところがこれで問題は終わりません。民法では「相続人の順位」が定められており、この相談者の状況で「第一順位である子」が相続放棄をすると、「第二順位の相続人である直系尊属の内、故人に一番近い人:即ち」が相続人となります。

つまり相談者の債務を親が相続することになってしまいます。

もしも親に十分な資産があったとしたら、債務を承継しても資金的には困らないかもしれません。ですが将来、その親の財産を相続する相続人(兄弟姉妹や相談者の子)からすると、相続する財産が減少する結果となります。

これはこれで困ります。

ですので今回の場合、親も相続放棄をするべきでしょう。

そして本件で親が相続放棄をすると、次の相続人は祖父母となります。

祖父母が既に没している場合、「第三順位たる兄弟姉妹」が相続人となります。

債務を承継する理由は当然無いので、兄弟姉妹も相続放棄をします。(兄弟姉妹が既に没している場合、その子供(=甥姪)が相続人となるので、甥姪も相続放棄します。)

ところで相続放棄の手続きは、原則として、

「<自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に、>家庭裁判所に申述書を提出」・・・する必要があるのですが、本件では、

・子は、相談者の死亡を知った時から3ヶ月以内に、

・親は、子が相続放棄をした時から3ヶ月以内に、

・兄弟姉妹(及び甥姪)は、親が相続放棄をした時から3ヶ月以内に、

・・・それぞれ行うこととなりますのでご留意下さい。

 

**この様に相続放棄の検討は、「相続放棄が連鎖してゆく」事を念頭に置く必要がありますので慎重に行いましょう。

 

**今回のお話は、本来私ども税理士事務所が積極的に関与する案件ではないかもしれません。(手続は弁護士さんなどにお願いする事になるので)

ですがお客様が実際にこういった相談をまず持ち掛けるのは、私どもに対してです。

その場面で「ウチは税理士事務所なので税金しか分かりませ~ん」という事になってしまわない様に、「日々これ勉強なり」ですね。

今回は概略を説明できてホッとしました。

※気が付けばいつの間にか師走ですね.年内はあと2回更新予定です。ではまた。

文:税理士法人村上事務所 片山洋

贈与の種類について

贈与の方法について、通常の贈与(暦年贈与と呼ばれる)とは別に、相続時精算課税制度というものがあります。

通常の贈与は、1年(1月1日から12月31日)の間に贈与された財産の相続税評価額から110万円を差し引いた金額により、税金を計算します。

贈与税の控除額が110万円まで、というのはご存じの方も多いのではないでしょうか。(基礎控除額といいます。)

では、相続時精算課税制度による贈与は、暦年贈与と何が違うのでしょうか?

1.相続時精算課税制度は、贈与をする方(贈与者)と贈与を受ける方(受贈者)が限られます。
贈与者は60歳以上である親に限られ、受贈者は20歳以上で、かつ、贈与者の推定相続人である必要があります。(年齢はその年の1月1日現在の年齢です。)
但し、平成27年1月1日以後の贈与から、推定相続人でない20歳以上の孫も認められることとなりました

2.控除額は2,500万円となります(特別控除額といいます)。注意しなければいけないのが、暦年贈与と違い毎年2,500万円の控除額があるわけではなく、その贈与者から受ける贈与について全体を通して2,500万円という点です。

3.相続時精算課税制度は、税率が一律20%となります。暦年贈与の場合には、課税される金額に応じて税率が変動します。

4.贈与者が死亡したときの、贈与された財産の取り扱いが異なります。
暦年贈与であれば、相続開始前の3年以内に、相続または遺贈により財産を取得した人がその贈与者から贈与を受けた財産のみが、相続税の課税される財産に加算されます。
相続時精算課税制度は、その適用を受けた全ての財産について、相続または遺贈により財産を取得しなかった人でも贈与された財産を相続または遺贈により財産を取得したとみなして、贈与時の価額を相続税の課税される財産に加算します。

制度の名前の通り、相続時において、贈与を受けた財産にかかる税金を精算します。

この適用を受けるには、必要な書類を贈与税の申告書の提出期間内に提出する必要があり、また、度適用すると撤回ができません。

最後に、相続時精算課税制度は、2,500万円という大きな控除額が目を引きますが、その制度の適用には慎重な判断が必要となります。

最後に簡単ですが、相続時精算課税制度のメリット・デメリットの具体例を下記に掲げます。

相続時精算課税制度の対象財産については、贈与時の評価額で、相続税の課税価格に算入されます。したがって、対象財産の贈与時の評価額が相続時の評価額を上回ってしまえば結果的に損をする場合があります。

例)
贈与時の評価額>相続時の評価額の場合(株式や土地など)
贈与時の財産の評価額 5,000万円
相続時の財産の評価額 3,000万円

相続時に財産を受け取っていれば、評価額が3,000万円で済んだものが、相続時精算課税制度を選択したために、5,000万円の評価額で相続税の計算をすることとなります。逆を言えば、贈与時の評価額が相続時の評価額を下回っていれば有利となる場合があります。

しかし、将来の株価や土地の評価額がどうなるかは、予想をつけることが難しいです。

また、対象財産の贈与時の評価額が相続時の評価額を上回る場合であっても、受贈者は、その贈与を受けた不動産等から収益を受け取ることが可能であり、その金額を加味すれば、この制度による贈与をした方が有利な場合があります。

いずれにしても、一度適用すると撤回できない(暦年課税に戻せない)相続時精算課税制度の適用には慎重を要します。表面的な金額のみで判断する事は危険です。

平成27年において相続税の税法が大きく変わり、相続税対策に贈与をする方が増えてきています。贈与税申告や財産評価など、是非当事務所にご相談ください。

参考 国税庁 タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択

税理士法人村上事務所
安居孝良

生前贈与加算対象外の相続開始前3年以内の贈与

生前贈与加算とは相続または遺贈により財産を取得した者のうち、その相続の開始の日から遡って3年目の応当日からその相続開始の日までの3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与により取得していた場合は、その贈与により取得した財産を当該被相続人の相続税の課税価格に加算して相続税を算出する規定です。つまり生前に贈与を受けた財産であっても相続開始前3年以内であれば、贈与税申告の有無に係わらず、相続により取得したものとして相続税の課税対象となるということです。そして当該贈与の贈与税の納税をしていた場合には相続税から差引かれることにより納税額が算出されます。

ところが、この生前贈与加算の対象外となる贈与の特例があるのでご紹介しましょう!

≪生前贈与加算の対象外となる贈与の特例≫

  • 贈与税の配偶者控除
     贈与の日時点で婚姻期間が20年以上である配偶者から、居住用財産またはそれを取得するための金銭の贈与を受けた場合に贈与税の課税価格から2000万円が控除されるという特例です。贈与税の課税価格から控除された配偶者控除額は、2000万円を限度として加算の対象とはなりません。
  • 住宅取得等資金の贈与
     平成27年1月1日から平成31年6月30日までの期間に直系尊属から自己の居住の用に供する住宅用家屋の新築、取得又は増改築等の対価の支払いに充てるための金銭の贈与を受けた場合において、一定の要件を満たせば、一定額までが非課税となる特例です。贈与税の課税価格から控除された非課税額は、加算の対象とはなりません。
  • 教育資金の贈与
     平成25年4月1日から平成31年3月31日までの期間に、金融機関等との一定の契約に基づき、30歳未満の者が教育資金に充てるために直系尊属※から信託受益権を付与された場合や、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預け入れた場合、書面による贈与により取得した金銭等で有価証券を購入した場合には、信託受益権又は金銭等の価額のうち1500万円(塾など学校等以外の者に、教育に関する役務の提供として直接支払われる金銭等で一定のものについては500万円)までは、金融機関等を経由し教育資金非課税申告書の提出をする等の要件を満たすことにより贈与税が原則として非課税となる特例です。金融機関等に教育資金贈与として預け入れた金銭等のうち1500万円までは、原則として加算の対象とはなりません。

※尊属とは,自分よりも前の世代に属する血族のことをいいます。具体的には、父母,おじおば,祖父母,曾祖父母などが尊属に当たります。

  • 結婚子育て資金の贈与
     平成27年4月1日から平成31年3月31日までの期間に、金融機関等との一定の契約に基づき、20歳以上50歳未満の者が結婚や子育ての資金に充てるために直系尊属から信託受益権を付与された場合や、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預け入れた場合、書面による贈与により取得した金銭で有価証券を購入した場合には、信託受益権又は金銭等の価額のうち1000万円までは金融機関等を経由し結婚子育て資金非課税申告書の提出をする等の要件を満たすことにより贈与税が原則として非課税となる特例です。金融機関等に結婚子育て資金贈与として預け入れた金銭等のうち1000万円まで(結婚資金は300万円まで)は原則として加算の対象とはなりません。ただし、贈与者が死亡した時に贈与した金銭等を使いきらず、残高が残っていた場合は相続税の課税財産となります。

以上、生前贈与加算の対象外についてご理解いただけましたでしょうか?

各特例には色々な適用に関する要件等が伴いますが、将来の相続税の節税対策としてご興味をお持ちの方は、箕面市の税理士法人村上事務所がお手伝いさせていただきますのでご検討ください。

税理士法人 村上事務所
谷田 哲章

 

 

相続税の改正及び生命保険金の活用で、「相続対策+α」を!!

相続税の改正ポイント:基礎控除額の引下げ

今回の改正で、特に影響が大きいものが、この基礎控除額の引下げとなります。

改正前であれば、「相続税なんて我が家には関係ない」と思っていたご家庭も、改正後は、申告義務者として対象の範囲になり得る可能性が出て参りました。

具体的には、以下のように改正されました。

【改正前】
5,000万円+(1,000万円✕法定相続人の数)

改正後
3,000万円+(600万円✕法定相続人の数)

基礎控除額が6割に縮小され、相続税の課税対象者が、改正前は日本の年間死亡者数の約4%のみの方だったものが約6%(1.5倍)に上昇すると見込まれています。

※改正内容は、平成27年1月1日以後の相続又は遺贈により取得する財産から適用されます。

参考:その他の改正内容
<相続税率の引き上げ、未成年者控除・障害者控除拡大、小規模宅地等の特例の拡大>

この基礎控除引下げに伴い、脚光を浴びているのが、生命保険を活用した非課税枠の利用です。また、生命保険は、早期の資金確保遺留分の対象から外すことにも力を発揮します。

【非課税枠について】
被相続人の死亡によって取得した生命保険金等で、その保険料の全部又は一部を被相続人が負担していた場合、相続税の課税対象となります。

しかし、死亡保険金の受取人が相続人である場合、以下の非課税限度額までは相続税の課税の対象となりません。

500万円✕法定相続人の数=非課税限度額

なお、相続人以外の方や相続放棄をした相続人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。

つまり、例えば自分の死亡後に残された配偶者や子供さんのために定期預金などで積み立てていらっしゃる資産を生命保険に組み替えて、この生命保険金の非課税枠を使うことで、改正により基礎控除額を少し上回るようなご家庭であれば、基礎控除額内に納まることになります。

また、基礎控除額を大幅に超える財産をお持ちの方でも、中には、「高齢なので今から保険には入れないだろう。入ることが出来たとしても保険料が高く損するだろう。」ということで生命保険の加入を諦めて、せっかくの非課税枠を利用していない方も見受けられます。
しかし、そのようなことはありません。ある保険会社では90歳の方でも加入できる「一時払い終身保険」という商品があります。
1,000万円弱の保険料一括払い込みで、死亡保険金1,000万円を受け取れる商品です。利息はほぼ付きませんが、相続税の課税対象から除けるというのは大変メリットがあります。

さらに、生命保険には非課税枠以外のメリットが2点あります。

【早期の資金確保】
一つ目が死亡保険金の受取人をあらかじめ決めることができるため、早期に資金を確保できることです。相続人全員の合意が無ければ引き出せない預貯金とは違い、生命保険金は受取人に早期に保険金が支払われます。遺産分割前に発生する葬儀費用の支払いや、遺産分割が申告期限までに整わない場合の相続税の支払いなどにも備えることが可能となります。

【遺留分の対象外】
二つ目が原則的には死亡保険金は遺留分の対象外となることです。

原則として、死亡保険金は、遺産分割協議の対象外となります。
税務上は、実質的には相続財産であるとみなし、相続税の計算上、死亡保険金を含めて申告することになりますが、民法上は、受取人の固有財産となり、相続財産に含まれないという考えです。

財産を相続させたくない相続人がいる場合、生前に生命保険金に加入し、受取人を財産を相続させたい相続人とすることで、遺言書での遺留分の計算に生命保険金を含めないことが可能となります。

ただし、相続財産がほとんどなく、一方の相続人が高額な保険金を受け取っており、他方の相続人には、生命保険金を除いた相続財産の内の自身の法定相続分を相続させるというような場合には、相続人間で「極端に」不公平になるとして、この生命保険金が他方の相続人からの遺留分減殺請求の対象となる可能性がありますのでご留意ください。

税理士法人村上事務所では提携している保険代理店がございます。保険の専門家である代理店、税務の専門家である当法人がお客様にあった最善の保険活用を連携しご提案致します。ご興味のある方、相談をしたい方は、豊富な経験と実績のある箕面市の税理士法人村上事務所を是非ご活用下さい!!

税理士法人 村上事務所
代表社員・税理士 鶴田晃宗

相続税法における家庭菜園の財産評価ついて

土地は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに、登記簿に記載された地目ではなく、課税時期(相続の場合は被相続人の死亡の日)の現況によって評価します。では、住宅と同一敷地内の土地の一部に花や野菜を栽培している場合、この栽培されている土地部分はどのように評価すべきでしょうか?
上記の土地は一般的には「家庭菜園」と呼ばれています。通常は、住宅の敷地の一部で小規模に栽培が行われていて、収穫された花や野菜は外部に販売されることはなく、耕作人自身で消費されていると想像される方が多いのではないでしょうか。 正しくそのような「家庭菜園」は、宅地部分と耕作部分を分けて評価することは適切ではなく、住宅敷地全体を宅地として一体評価すべきと考えます。

ここで住宅敷地のうち、耕作敷地がどのくらいの割合、面積までであれば、住宅敷地全体を宅地として評価する事が適切なのでしょうか? 住宅敷地全体が500㎡を超える場合、財産評価基本通達24-4「広大地の評価」に定める「広大地」に該当するかどうかで評価額は大きく変わり、住宅敷地全体を宅地として一体評価した方が、納税者に有利となる場合が考えられることから、問題となります。

この点、税法は家庭菜園と農地(田、畑 以下同じ)の線引きについて、面積基準等の画一的な規定を設けておらず、納税猶予の特例の対象となる農地の意義について「家庭菜園」という言葉がでてくるに過ぎません(措置法通達70の4-1)。 すなわちその土地が「家庭菜園」であるか否かは、その土地の利用の現況に照らし、具体的かつ個別に判断されるべきものであり、その面積も小さく、それのみでは農地としての存在価値を認めることができず、むしろ住宅の敷地と一体としてみることが適当なときには、いわゆる「家庭菜園」であって、農地には該当しないものと考えられます。

冒頭で述べたとおり、土地の評価は課税時期の現況によって評価することになります。上記の「家庭菜園」はあくまでも一例ですが、相続発生後に相続税申告のご依頼をいただくよりも、相続発生前の対策(事前設計)の段階から関与させていただいた方が、事前に利用方法のアドバイスを行うなど、財産の評価額の減少のためのご提案をできることも多々あります。とりわけ農地税制は高度な専門性が必要であり、長期的な展望なく拙速に結論を出すことは非常にリスクを伴います。税理士をお探しの方は、相続業務に豊富な経験と実績のある箕面市の税理士法人村上事務所を是非ご活用下さい!!

 

(参考条文)
措置法通達70の4-1 (70の6-1)「農地又は採草放牧地の意義」

(参考裁判例)
農地とは、耕作の目的に供される土地をいう。そして耕作とは、土地に労資を加え、肥培管理を行って作物を栽培することであり、ある土地が耕作の目的に供されているかどうかは、その主観的使用目的や公簿上の地目により決するべきではなく、その土地の事実状態に基づいて客観的に判定すべきである。
(大阪地裁(行ク)24号、平成20・10・1)

税理士法人 村上事務所
河村 貴幸